[連載]カミングアウト日記 第2回

2016年2月24日

コラム

この新コラムは 最近バブリングのボランティアをスタートしたNORI(ゲイ・31歳)が今年の正月に和歌山に住む家族へカミングアウトするまでの状況・心境を1か月前からつづった日記を連載コラム形式でお届けします。
リアルな今の心の心境・赤裸々に語った過去、家族の話。全力で自分とそしてカミングアウトと向き合ったストーリーです。

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本日は第2回。前回のストーリーはこちら

12月3日(木)「理由」

なぜカミングアウトしようと思ったのか。理由は色々ある。
そもそも僕はカミングアウト否定派だった。それもつい30歳になるまでの最近の話。
誰からも好かれたいというわけではないが、ゲイというだけで一定の割合の人から嫌われているという現実。なんとなくゲイということが弱みであり、短所に感じていたのだと思う。
だからカミングアウトすることは自分の弱さや短所を見せることにも思え、さらけ出した心が傷つくのを何より怖がっていたのだと思う。
そんな僕が30歳を機に変われた理由、やはりそれは人である。多くの心ある人たちに恵まれ、僕は変わった。急にではない、少しずつ少しずつ、長い歳月をかけて。

 

12月4日(金)「変化」

30歳に少しなる前くらいからである。心の変化に自分で感じ始めるようになったのは。
誰にもカミングアウトをする気がなかった当時の僕は、誰一人としてカミングアウトをしていなかった。だけど30歳になる頃、30代というものを意識し始めたとき、周りの異性愛者の友人達は結婚や子ども、家庭を築いていくのに、僕にはそれがない。
「いつ結婚するの?」そんな問いかけが次第に心苦しくなってきた。結婚できない自分に対してではなく、周りに適当なウソを並べている自分にである。そしてなんだかこの嘘やごまかしが孤独に繋がっていくようにも思えた。孤独は嫌である。そう思うと、この先の長い人生、僕のことを理解してくれてずっと関係を築いていける人たちをとても望んでいる自分に気付いた。そのとき決心した。
「きっと理解してくれる人たちは周りにたくさんいるはず。だからもっとその人たちのことを信じて一歩踏み出そう。」と。

12月5日(土)「子育て」

今日は仕事で小学2年生の女の子を連れてサンリオのピューロランドへ行った。
半分親のようなこの仕事はこうやって子どもと一対一で出かけるのも仕事の一つである。もちろん外では親子にしか見えないようなので何度も「お父さん。」とスタッフの人に声を掛けられる。そんなことも慣れているとはいえ、言われるたびに心は少し動揺する。夕方になり帰る予定の時間が来ても、その子は帰りたがらず、ひたすらワガママを言い続け僕を困らせた。何度話しても受け入れず、言うことを聞かずで、何度も怒ったり叱ったりもした。最終的にはその子は「ごめんなさい。」と素直に謝った。
その言葉が言えるまで何時間もかかった。その頃の僕はといえばもう抜け殻のように疲れ果てていた。正直見捨てて帰りたい、と何度思ったことか。そんな中ふと思う。「僕が子どもの頃も父さんと母さんはこうやって大変な思いをしながら僕に向き合ってくれてたのかな。」って。
…「父さん、母さん、僕はあなたたちをこんな風に困らせていましたか?」

12月6日(日)「BAR」

僕の初めてのバブルバーは今年の5月頃。友人に連れられてお客として訪れた。
バブルバーとは、簡単に説明するとカミングアウトを応援するNPO団体バブリングの事業の一つとして行っているバーである。それから約半年後ご縁も重なり、もてなす側として初めてカウンターの中に立った。
半年ほど経って自分の立場は変わったが、緩やかな心地よい空間と温かい雰囲気の場は何も変わらないな、と改めて感じさせてもらえた日でもあった。公にカミングアウトしていないゲイの僕がこの「場」に立つとありのままの自然な僕でいられる。だからそんな僕のように、バーを訪れた人たちがありのままの自然な自分で居心地良く過ごせるようなそんな「場」で在れたら良いなと。それはセクシャルマイノリティだとか、そうじゃないとかではなく全ての人にとって。そしたらきっとこの「場」からも何かが変わり、多様性を受け入れ認め合える、そんな小さな社会が生まれて、それが少しずつ広がっていったら良い、そんな風に思えた時間だった。

12月7日「自覚」

僕は一体いつからゲイだったのだろうか。おそらく生まれつきである。
小さい頃は女の子っぽいところもあり、ぬいぐるみやセーラームーンなんかも好きだったような気がする。仕草も女の子っぽかったこともあり、よく小さい頃は女の子に間違えられた。振り返ってみて自分がゲイだと確信した出来事がある。
それは小学5年生のときに父親と一緒に出かけた長野旅行のときである。温泉に入っていたときに裸の男の人たちにドキドキした、きっと性的な感情もわずかながら芽生え始めていた頃だったのかな、と思う。今でもそのときのワイルドな感じの男前なお兄さんのことはなんとなく覚えている。今思えばなんだかその頃から好みのタイプはあんまり変わってないのかな、なんて思ったり。ちなみにその旅行の際も女の子に間違えられることもあった。
ここで一つ僕の中で疑問が生じる。
今の僕はゲイの中でもどちらかというと女性的な方ではなく、よく「本当にゲイですか?」と聞かれることも多い。それくらいストレートに近い男性な感じである。女の子っぽかった僕が、一体僕の中で何が起こって変わっていったのだろう。心に何かがひっかかる。それはきっと今の僕につながる中で大切なことかもしれない。
そのためにはそう、僕は僕を振り返る時間がやっぱり必要なんだ、過去の僕と。

12月8日「閉ざす」

僕はあまり話すことが得意ではない。
小学6年生の半ば頃からである。きっかけはよく分からない。それまでは一緒に遊んでいる友達もそれなりにいた。だけど気付けば口数が少なくなっていき、言葉を発することも少なくなっていた。
学校での休憩時間は机でぼーっとしていたり、昼休みは図書館で過ごしたり、ほとんど喋らなくなっていた。家の中でも同様でほとんど喋ることはなかった。
返事は首を縦に振るか横に振るか、そんな感じである。それは中学3年生の半ば頃まで続いた。周りから見ればとても暗い奴だったと思う。その頃の僕は人との関わりにおいて心を頑なに閉ざしていた。どうして中学3年の半ば頃から、少しずつ話し始めるようになったのか、理由は今でもはっきりしないが、この小6から中3にかけては思春期真っ只中であり、心と身体の変化、性の意識の芽生えが大きい時期。
今思うと男だけど女のような僕を人に、外に見せることに強い抵抗があり、また僕自身も子どもながらに、それは簡単に人に認めてもらえるものではないと感じていたのかもしれない。
だからそのときの僕は全ての人を遠ざけ、誰にも近寄らせないようにして、僕は僕自身を守っていたのだと思う。
きっと誰も僕のことは分かってくれないし、だから僕は一人ぼっちなんだって。

12月9日「ロシアンルーレット」

生きるって何?死ぬって何?生きる理由は?自分で死ぬっていけないことなの?高校生の頃の僕はそれなりに人と話すようになったし、友達と呼べるような人もいた。
だけど誰にも本心を打ち明けることはなかった。当時の僕は生きたいと思う気持ちはなかった。死んでしまいたいという気持ちがとても強かった。高校からの自転車の帰り道で踏み切りでぼーっとしたり、橋の上から下を眺めるのはほぼ日課のように過ごしていた。
だけど死ぬ勇気もなかった。だから僕は生きるか死ぬかのゲームをすることにした。まっすぐな道で少し先に信号が見えると自転車に乗りながら静かに目を閉じ、そのまま真っ直ぐに進んだ。
青ならそのまま渡りきれる、その先にあるのは生きること。
赤なら車と事故に遭うかもしれず、その先にあるのは死ぬことかもしれない。
不思議とこのゲームのときは恐怖はなかった。むしろ何かから開放されたような安らぎさえ感じた。生きることも死ぬことも僕が選択することではなく、運命に委ねられているような気がしたからかもしれない。幸い僕は生かされ、今ここにいる。というか、本当は生きたい気持ちが強かったのだろう。そしてきっとこの頃からだと思う。死ねずに生きていくのであれば、どうせなら人のためになるよう生きていきたい、そう思い始めたのは。

–WriterProfile—————————————-
NPO法人バブリング Nori
男性
セクシュアリティ:ゲイ

大阪で生まれ、現在は児童福祉の現場で働きながら
バブルバーにも不定期でカウンターに入る。
カミングアウトと向き合い、葛藤しながらも自身の経験を伝える為に筆を執る。
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