二つのマイノリティ
2016年2月29日
コラム
バブリングはメンバーにセクシュアルマイノリティが多いこともあり、セクシュアリティをテーマにすることも多いのですが、性的指向の話に限らず心身の状態や育った環境・ルーツなど、様々なマイノリティが自分らしく生きること、そして大切な人へのカミングアウトに向き合うことを応援できたらと考えています。
僕自身はゲイですが、父が台湾出身なので、ルーツの話をすれば台湾ハーフということになります。最近テレビやスポーツの世界ではハーフの方が活躍しているし、ハーフと言えば聞こえはいいのですが、子供の頃は父の話す日本語が少し変だったり、おじいちゃん・おばあちゃんがどこに住んでいるかといった話題が出るのが嫌でした。
今では自分が台湾(祖父母に遡れば清朝滅亡後の大陸中国ということになります)にもルーツがあることは、自分を構成する一つの要素として大切にしていることですが、正面から向き合えたのは社会人になってからなので、ゲイであることと同じぐらい子供だった僕を「閉ざしていた」要因であると言えるかもしれません。
ハーフやクォーターは今はマイナスのイメージは少ないですが、昔はもっと奇異の目で見られていたのだと思います。
多分そうした時代背景があってだと思いますが、僕の両親は父が帰化した際、父の姓ではなく日本風の姓を名乗ることにしました。そして父に言わせると「完璧な日本人にするため」あえて中国語を教えてくれませんでした。
今の僕からすれば、いかに両親が頭をひねって考え出した苗字であろうと、自分のルーツを覆い隠すかのような真新しい苗字よりも、父の祖先が名乗ってきた苗字の方が誇りが持てると思うし、バイリンガルに仕込んでおいてくれれば働くフィールドも広がったのに、と恨みがましくも(笑)思うのですが、その当時彼らは僕が学校でいじめられたりすることを危惧したのでしょう。そんなわけで、ゲイであることも外国にルーツがあることも頑なに隠し続けてきた僕は差別にさらされることはほぼありませんでしたが、その代わり自分のことを開示することがすごく苦手で、心に鉄の鎧をまとうようになっていました。
近頃セクシュアルマイノリティについてのニュースが流れると「セクシュアルマイノリティを否定はしないけれど、取り立てて自分たちの存在を主張しないで欲しい」というようなコメントを目にしたりします。
確かに「自分が何かのマイノリティであること」は別段アピールすることではないのですが、それを隠さなくてはいけない状況というのは強いストレスですし、大人になればある程度の開き直りと割り切りもできるのですが、子供の頃はそれも難しいですよね。だから、マイノリティは黙って生きていけばいいのではなくて、少なくともマイノリティの子供たちが自分のことを隠す必要がなくなるまでは、マジョリティに知ってもらう努力を僕たちはしなくてはいけないんだろうなと思います。
さて、自分が差別を受けるかもしれないマイノリティで、かつそれが外見などからはわからない時、対応策としては大きく二つあると思います。一つは自らのことをオープンにし、周囲から理解を引き出す、または闘う方法。もう一つはそれを隠し、マジョリティに溶け込んで生きる方法。どちらが正解ということはなく、マジョリティからの風当たりが強いほど後者が現実的な選択肢になるものと思います。
特に日本では在日外国人が通名を名乗って日本社会に溶け込むという方法が多く取られてきたようです。それは、彼らが直面していた現実を想像すると、その選択を否定できるものではありませんし、僕の両親が判断した理由もまさにそこにあるのだと思います。
しかしながら僕は将来的には父が中華民国籍だった頃の姓を名乗りたいという気持ちがあります(法律上それが可能なのかはきちんと調べていないのでわかりませんが)。それでも「将来的に」というのは、父母への気遣いもありますが、まだ「マジョリティ」を捨てる覚悟ができないからです。
初対面の人に日本語はできますか?と聞かれるのは面倒だなとか、あの人は台湾人だから、などと陰で言われなくたいな、とかそんなことを考えているうちはやめておいた方がいいだろうな、と自分でも思います。なんだかカッコ悪い話ですが。
子供の時の僕が必死に隠したいと思ったのは周りのみんなと同じでありたい、違ったら排除されるかもしれないという恐れがそうさせたのだと思います。そして今も、子供の頃に比べればオープンにしているとは言え、上のようなことを考えてしまうということは、根本的にはその「恐れ」は解消していないのだと思います。周囲と同じでありたい、できれば自分はマジョリティの立場にいたい、と。人はそのために、自分のマイノリティな部分を隠したり、他者のマイノリティな部分に鈍感になってしまったりする。
バブリングはすべての人が、ありのままの自分を表現することができ、あるがままの他者を受け入れることのできる、強くて寛容な社会の実現をビジョンに掲げています。
ゲイであることも、ルーツが外国にあることも、まだありのままの自分を表現できていない僕ではありますが、だからこそもうちょっと自分と向き合って、そしてそんなことが普通にできる世の中を想像して、活動していけたらなあと思っています。
–WriterProfile—————————————-
NPO法人バブリング ヒロフミ
男性
セクシュアリティ:ゲイ
ゲイであり、ハーフであるダブルマイノリティ。
穏やかさと怒りを内に秘めた熱い心を持った素敵男子です。
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