ディスレクシア – 自分を受け入れるためのカミングアウト-
2019年6月17日
カミングアウトストーリー
まずはご自身の持つ『ディスレクシア』の特徴について教えていただけますか?
日本語で言うと、失語症です。症状も人それぞれ違っていて、主に読書とか読み取りの情報処理などに影響しています。
症状は具体的に、人によってどのように異なるのでしょうか。
全然読めないくらいのレベルだったり、bとdを分別できなかったり。手書きができない人もいます。程度とか、どんなところに出るのかも人それぞれ違います。大体は文字の処理なので、例えばpとqが分別できないために全く文章が読めない人もいます。
ゴエイさんは、幼い頃に分かったのですか?
症状の極端な場合は、すぐに分かるし明らかにもなりやすいですが、私の場合は、私の読むスピードの遅さに気がついた小学校の先生から「検査をした方が良いんじゃないですか」と何回も勧められたことがきっかけです。
自分でも読むスピードが遅いのは分かっていましたが、そこまで他の人と違いはないと思っていました。だからあまり決めつけられたくなかったこともあり「別にこのままでいいや」と思って検査はしませんでした。実際、重い症状は出ていなくて、影響は『読むスピード』という情報処理の部分でした。
字を字として認識できるけれども、それを情報として処理するのに時間がかかるということでしょうか。
そうですね。僕の場合はそれなりのコツを見つけたり、ひとつの言葉を何度も読むと読みやすくなったりします。それくらいの程度の症状でした。遺伝によっても出やすい障害で、母親も当事者なのですが「今は治った」と言っています。ただ、おそらく言葉自体を暗記しているから読むスピードが速いということのようで、日本に来ても『高田馬場』といった、読み方が特殊な地名を読み間違えることはたびたびありました。
友だちから、何か言われたりしたことはあるのでしょうか。
書くことは若干苦手でしたが、ごまかせる程度だったのでそこまで問題ではなかったこともあり、周りが気づくほどのものではなかったです。ただ、配慮をしてもらうために学校側には話していて、それでテストの時間が自分を含めて何人か長くなるので、気づく人もいたとは思いますが、特に何か言われたりなどはなかったと思います。
普段の生活で困ることはありますか?
ディスレクシアでない生活はしたことがないし、もう慣れてしまっているので今はないです。強いて言うなら、契約書のように文章が長かったりすると少し大変です。それとたまに、特に疲れている時などは、毎日書く言葉なのに「何だっけ?」みたいなことはあります。
確かに私としても、意思疎通ができていると感じています。
それは『会話に影響のある症状ではない』からですね。学校の授業などでは、もちろん暗記もあるので影響がありますし、日本語って仮名があるじゃないですか。仮名だと、また脳の違う部分を使うらしくて、読みあげる時に症状が出たり出なかったりします。
他言語より日本語は複雑だとも聞きますが、日本を留学先に選んだのはなぜですか?
もちろん大変なこともたくさんあるのですが、特別な理由はなくて、単純に日本が好きだから来ました。昔から『日本に住む』ということを、夢みたいに目指していました。
日本の教育機関では、ディスレクシアへの対応や配慮を聞くことがあまりないように思います。
自分が通う日本の大学へ、ディスレクシアについて初めて問い合わせをしました。留学生も増えていて、障害支援室みたいなものもあるから、それ自体に驚かれはしませんでした。複雑でしたが全部説明したものの、特に制度化はまだされていないとのことでした。
オランダにおけるディスレクシアの認知度は、どの程度でしたでしょうか。
オランダでは結構知られています。検査をされて結果が出たら配慮されます。自分の場合も学校が先に気づいてくれました。主な配慮は、テストの時に時間を延長してもらえる、などです。教育機関での認知度は高いと思います。
オランダは教育制度が整っていると感じますか?
そういうイメージはありますね。ずっと改善が続けられていて、世間からも厳しく判断されています。オランダは税金が非常に高いのですが、全体の割合として最も税金が使われているのは教育です。奨学金だったり、教育自体の質を上げたりなど、用途は色々とあります。
日本の場合、カミングアウトするのに勇気がいるのではと想像します。
どちらかというと日本では必要でない限り、カミングアウトしたいという気持ちはないです。「言ってもいいかな」くらいで。オランダではカミングアウトという感じではなかったですし、あまり話題にも上げなかったですね。
これまでに『カミングアウト』と思って、誰かに伝えたことはないのでしょうか。
話したりはするのですけど「打ち明けよう!」とかではないです。ちょうど先日、オランダの高校時代の友人が日本へ遊びに来て、色々話している中で「そうだ!お前ディスレクシアだったんだな!」と言われるくらい相手は軽い感じで、忘れていました。
他のディスレクシアの方に会ったことはありますか?
小学校の時に1人いて、高校の時には2~3人はいましたが、重い症状の人がいなかったからか、正直ディスレクシアについて話すことはなかったですね。とある人のケースでは、文字を大きくしてもらう配慮は受けていました。例えば、問題の文字サイズを大きく印刷してもらうことで、読みやすくなる人もいるんです。
日本だとフォローされるどころか、スルーされている人も多い気がします。
可能性はありますね。必ずしも、文字を大きくしたから読みやすくなるわけではないですし、私の場合はあまり効果がない気がして、普通の文字のサイズで読んでいます。あとは例えば、横じゃなくて縦にして読んだり、目線の高さに合わせて読むことも処理がしやすいですね。症状が重く、文字自体が読めない人は教科書などを音にして聞いたりする人もいます。俳優のトム・クルーズは台本を読めなくて、他者に読んでもらっているそうです。
ディスレクシアについて、もっと認知が広がってほしいと思いますか?
そうですね。まだ今は良いのですが、これからの生活で問題に直面すると思います。例えば、就職活動の面接時に言うか言わないか、とても迷っています。実は大学で1回留年しているんですが、その理由のひとつに試験問題の読解に時間がかかってしまったことがあります。もしもディスレクシアの申告をして試験時間などの配慮をしてもらっていたら、きっと結果は違っていたはずです。
就活の際も、留年した理由を面接で訊かれるとは想定していなくて戸惑いました。その時は少し嘘をついてしまって不自然さが出たのもあり、結果的に落ちました。今では「やっぱりディスレクシアについて正直に話しておけば良かった」と思います。今日も面接があって、今回は正直に話しましたが、相手が全然理解というか把握していなくて、実際どういう印象になったのかは気になります。最終面接で、もし2人残ったら「ディスレクシアの自分は採用してもらえないのでは」と思ってしまいますね。
教育機関だけじゃなく、社会全体でディスレクシアへの理解を深めたいですよね。
オランダの場合、自分から「ディスレクシアでも仕事に影響がない」と伝えて働き方を少しのあいだ見てもらい、平気だと判断されれば全く問題なく採用され続けます。ディスレクシア当事者を取り巻く環境は、オランダ社会においてはそこまで深刻ではありません。
私は他人より努力が必要だと思っています。日本での就職活動も、やりたいことがあるなら「頑張るしかない!」という感じです。特に、日本で生活したいと考えているので。
今回のインタビュー以外に、ディスレクシアについて発信することはお考えですか?
私がディスレクシアだと分かったのはオランダ語なので、日本語のことで共感できるかは分からないですが、できることがあればしたいと思っています。たとえば英語の場合、ひとつの発音でも別のスペルが存在する単語がありますよね。(例:sightとsite、wrightとwriteとriteなど)そういった場合、ディスレクシアの症状が強く出る可能性が高いといわれています。一例ですが、そういった点も知ってもらえたらいいなと思っています。
カミングアウトをしようか迷っている人がいたら、どのようなことを伝えますか?
後悔することもあるかもしれないけど、やっぱり自分と向き合う一歩になるから、乗り越えるために、自分を受け入れるためにカミングアウトはした方がいいです。むしろ避けられないのではないかと。カミングアウトできないということは、自分を受け入れていないことになると思います。後悔しても、自分を受け入れられるようになるためには良いのではないかと思います。
日本が好きで、来日を夢にまで見てくださったゴエイさん。ご自身のもつディスレクシアをきっかけに、オランダと日本の教育環境の違いについて学ぶことができました。ぜひこれからも日本で活躍していただきたいです。この度は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
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