不育症 -「第Ⅻ因子欠乏症」って?
2017年3月27日
カミングアウトストーリー
【不育症】 (ふいくしょう)
妊娠はするが、流産、死産や新生児死亡などを繰り返して結果的に子どもを持てない場合、不育症と呼ぶ。習慣(または反復)流産はほぼ同意語だが、これらには妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は含まれない。不育症は、より広い意味で用いられている。実は学会でも何回流産を繰り返すと不育症と定義するか未だ決まっていない。しかし、一般的には2回連続した流産、死産があれば不育症と診断し、原因を探索する。また1人目が正常に分娩しても、2人目、3人目が続けて流産や死産になった際、続発性不育症として検査をし、治療を行う場合がある。(引用:Fuiku-Labo厚生労働省http://fuiku.jp/fuiku/)
突然のマイノリティ要素発覚から、いまだ気持ちの整理がしきれない井上あすかさん。今回はインタビューを受ける中で、改めて気持ちに向き合えるきっかけになれば良いと快く引き受けてくれました。周囲への溢れる気遣いと、時折見せる爽快さが印象的なインタビューをどうぞ!
井上あすかさんのマイノリティ要素は何ですか?
不育症です。
それは何で分かったのですか?
流産後しばらく体調が悪く、その際急遽対応してくれた医師に「2回目の流産なんです」と伝えたら、そこで初めて「不育症って知ってる?」と聞かれました。「知らないです」と言うと、「流産を繰り返す人の中に、『不育症』が原因の人がいます。不育症かどうか、分かる検査がありますよ」と伝えられ、「君の流産の原因が分かるかもしれないし、もしかしたら分からないかもしれない。本当は3回目の流産で勧めてるけど、受けてみてもいいかもしれない。考えてみて」と言われ、検査を受けることにしました。
すぐに検査を受けることに悩みはなかったのでしょうか?
私は何事も白黒をつけたい性格です。
自然妊娠を望んでいるので、時間を無駄にしたくないという気持ちも強かった。だから検査を受けること自体に悩みはありませんでした。
関東地方でも不育症専門の医師が数名しかいないと聞いていました。その中で一番近い病院に検査をするための初診予約をして、4ヵ月待ちました。予約をした時点で4ヵ月待つことが分かっていたので、考えるなら「待っている間に考えればいいや」という感じでした。
検査自体は、どんな感じなのですか?
1つは血液検査で、大量の血を抜かれた記憶があります。もう1つは、内診です。不育症専門の病院なので、他の産婦人科にはないエコーの機械がありました。
そして実は、血液検査の結果を知る前に、内診の段階で先生から「あーこれは難しいね」と言われてしまっていたのです。ただ「詳しくは結果を待たないと分からないけどね」とも言われました。
その「難しいね」の真意は何だったのでしょう?
要は「これじゃ赤ちゃん育たないね」という意味です。
子宮に太い血管が走っているのですが、エコーを見て血流が明らかに悪いということが分かったのです。赤ちゃんは血液から栄養を摂って成長するので、エコー画面を見ながら先生に「これでは難しいね」と言われてしまいました。
不意打ちをくらってしまい、頭が真っ白になりました。
まさか、この機械一つで先生にサラっと言われるとは思いもしませんでしたから。血液検査で分かるものだと思っていたので、受診しておきながら心の準備が「まるでできていなかった」ことに後から気付きました(笑)。
結果までは、どのくらい待ちました?
もう忘れてしまいましたが、2週間くらいだったと思います。検査結果は、私が見ても分からない数値がたくさん書いてある紙を見せられ、「原因は分かりました」と先生に言われました。
私の場合は『第Ⅻ因子欠乏症』といって、血液凝固因子の一つで、これが欠乏すると血栓や流産を引き起こしやすいと言われているものでした。簡単に言うと、生まれながらにして血流が悪いという事です。
先生に「不育症には、よくある原因の一つだよ」と言われました。「これって治るのですか?」と聞くと、「いや、これは体質の問題だから治らない。遺伝子レベルの問題だから治らない」と言われました。
不育症と言っても、原因は様々です。病名がつくものもあれば、残念なことに原因がないこともあります。原因がなく流産を繰り返すのが、一番辛いかもしれないです。
納得する理由すら示してもらえないとは辛いですね…。
そうですね。私にも、その可能性はありました。
私の『第Ⅻ因子欠乏症』は治らないのですが、幸いなことに、薬を飲み続けることで出産までたどり着ける可能性があります。排卵日前後に性交渉をした時は、少なからず妊娠の可能性もあるので、そういった時だけ今は薬を飲んでいます。
中にはお腹に直接自分で注射する治療もあり、子どもが産みたくて打つところがないくらい注射をしている人もいるそうです。だから私は薬の服用で済むだけ恵まれているのかもしれません。辛い思いをしている方は大勢いるのです。
妊娠したら出産直前まで薬を飲み続けなければならないのですが、どこでも薬を処方してもらえる訳ではなく、近所の産婦人科に行って不育症と『第Ⅻ因子欠乏症』を説明して、ようやく処方してもらえるかもらえないかの状況なのです。もらえなければ、その薬を処方してくれる病院を探し出すしかありません。受診すらできないこともあるようです。
薬の費用的な問題はありますか?
保険がききません。その他不育症治療や不妊治療をしている人たちと比べれば、私は費用がかかっていない方です。本格的な治療となれば、何百万とか何千万もかかります。それでも、日々の生活もあるので影響は少なからずあります。
一番最初にカミングアウトしたのはお母さんですか?
最初は、母ですね。
内診が終わった時点で既にカミングアウトしていたので、「原因が分かった」と伝えたら「病名は?」と聞かれ、症状である『第Ⅻ因子欠乏症』を伝えました。母自身も初めて知った単語でしたが、「原因が分かっただけ良かったじゃない」と言われました。
夫には、そこまで詳しく言っていません。
内診の結果も言っていませんでした。原因が分かってから、簡単に伝えた程度です。ただ夫にも2回の流産を見せてしまっていたので、夫は「自分に原因があるのでは?」と思っている節がありました。だから私は検査結果を聞き、家に帰ってから「原因は、あなたじゃなかったよ」と伝え、「原因は私にありました。ごめんね」とだけ言いました。
井上あすかさんの旦那さんに対する「ごめんね」の理由は何でしょうか?
付き合っている当初から、夫は「早く子どもが欲しい」と言っていました。
とはいっても結婚するまで丸6年の時間があったので、そこまで重要でもなかったのかな?やっと結婚してさぁこれからという時に、私が不育症であることが分かり、「子どもを産んであげることが難しいかもしれない」「彼の気持ちに応えてあげることができないかもしれない」と申し訳なさを感じました。
あとは結婚相手としてせっかく選んでくれたのに、「女性」として、「子どもを産むという役割を果たせなくてごめん」という気持ちです。
他にカミングアウトした人はいますか?
親しい女友達の何人かですね。
隠していないので、親しい男友達にも話しています。この年齢になると話の流れで「あすか、子どもは?」と嫌でも聞かれます。「いない。いや私、不育症なんだよねー」と。だから流産したことも話します。
ただパッと言えるようになったきっかけはありました。
今でも忘れません。非常に感じの悪い同窓会でした。子どもがいる女友達から「あすか、子どもはー?」とかなりしつこく聞かれまして。お酒も入っている場なので、だんだんと我が子について熱く語る人が出始めて、女友達はさらに「早く子どもつくんなよー」と絡んでくるわけです。
この時、私は流産してまだ数か月しか経っておらず、子どもの話なんてしたくありませんでした。同じ女性なら気持ちを理解し、そっとしておいてくれるかと思い、「私、流産したんだよね。だから今そういう考えには至らない」と言いました。これで絡みが終わるかと思いきや、二次会でもしつこく聞いてくるわけです。「子どもはー?」と(怒)。物凄い腹が立って、二次会はすぐ帰りました。
帰った後、家で泣きました。
この同窓会の話は、すぐ夫にも話しました。「男性はいいよね。こういうこと言われなくて」というと、夫は「普通に自分も言われるよ。早く子どもつくりなよ、とか」と言われ驚きました。「えぇ!そうだったの?」と聞き返すと、夫は「そうだよ。でも社交辞令みたいなもんでしょ。会話がないから言ってくるんじゃない?」と答えました。
それで吹っ切れました。男も女も関係ないのだ。話を上手くかわす術は、これからの私には絶対に必要だって。話が分からない相手に、いちいち怒っても仕方がない。
疲れるだけ。心が折れるだけ。
「もう、どうでもいいや」と思えたのです。
相手の「無知」が原因で起きてしまったのかもしれませんね。
不育症って、女性も知らないです。
今まで十数人に言っていますが、「知ってる」と答えた人は1人もいません。
子供が欲しいのに授からない人や、流産をしたことがある人や繰り返してしまう人は、とても苦しい思いを抱えています。だから「言えない」「言わない」。それが世間に知られていない、一番の原因なのかもしれません。
潜在的にカミングアウトできなくて、苦しんでいる人もいそうですね。
そうかもしれません。
私は誰に知って欲しいかというと、もっと社会に知って欲しいです。
不妊症に対しては、自治体によって補助金制度があります。最近では、不妊症に対する保険も出始めました。それを知った時に、私はとてもショックでした。不育症に対して、補助がある自治体はほんの僅か。認知されれば、医師や外来の数も増えるのではないでしょうか。
カミングアウトした後で、気持ちの変化はありますか?
今でも「女として終わっている」という思いは拭えません。
連続2回流産する確率はとても低く、100人中2~3人です。
100人子供を産める人がいたとして、私は子供が産みにくいたった2~3人の枠に入ってしまう。不育症に関しては選びたくて選んだわけではなかったので、気が付いた時にはとてもショックを受けました。
女性としての「劣等感」が強いです。
夫の両親は理解があり、「あなたたち夫婦が幸せであることが一番大事だ」と言われました。しかし、こんな両親でなければ離婚させられてもおかしくないじゃないですか。ちょっと時代が違えば「子どもを産めないのか」ってことで、やはり離婚させられていたかもしれません。
だからこそ、夫の両親や夫には感謝しています。
ただ、それでも自分の中の「劣等感」は拭えないのです。
結論、カミングアウトしようがしまいが、あまり変化はありません。
同じ不育症の人に会えたら、どんな話をしますか?
まだ同じ不育症を抱えている方にお会いしたことがないので何とも言えませんが、同じ苦しみを抱えている者同士にしか分からない話になるのではないでしょうか。
そこでカミングアウトに迷っている女性がいたら、「好きにすれば」と言います(笑)。責任が負えないから、そこは本人に選択してもらいます。
その人の家族構成や、その家族が子どもについてどう思っているのかが大きく関係します。私は周りに恵まれていると思います。皆が私の両親や夫の両親のように恵まれている訳ではありませんから。だから、やっぱり「好きにしな」と言いますね(笑)。
要は、何かを言ってあげるというより、私には『話を聞いてあげることしかできない』かもしれません。
それでも、不育症を知らない人に悩みを話すよりは、同じ苦しみを理解し合える者同士だから気休めにはなるのではないでしょうか。
『何もできなくても、話しを聴くことはできる』ことは、簡単なように見えて誰にでもできることではありません。完全に気持ちの整理ができていないと言いながらも、自分と向き合い必要な部分は割り切る「強さ」があったからこそ、同じ境遇の方と話しができた時に『話を聴ける』のだと感じました。
今回のカミングアウトまでの流れは1~2年のことで、深い葛藤を抱えながらも大切な人を想う「芯の強さ」と自分の性に対する「儚さ」が合わさり、一歩ずつできることを踏み出していこうとしている姿が素敵でした。
井上あすかさん、今回は貴重なお話本当にありがとうございました!
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