在日コリアン – この名前で生きていく覚悟 [後編]
2019年3月18日
カミングアウトストーリー
ピースボートに初めて乗ったのは、いつ頃ですか?
20歳です。日本人の友だちができたのも、自分の話をしたのも、ボートに乗ってからですが、なかなか伝わらなくて。例えばピースボートでは船上で互いをニックネームで呼び合うんですが、結局みんな本名を訊き合うんですよね。それで本名を言うと「どういうこと?」「外国の人なの?」「日本語ペラペラだよね」って。そこから説明を始めるんですが、説明がややこしくなってくると相手の理解も難しくなってきて、でも僕としては「理解してもらわないと」と強く思っているから、かなり悶々とするんです。
ルーツの説明を丁寧にすると、相手の理解力や興味関心次第では、お腹いっぱいになっちゃうのかもしれないですね。
そうなんです、相手がお腹いっぱいになっちゃってダメなんですよね。細かい話には目をつぶって仲良くなってもいいんですけど…。その辺が僕のこだわりになってしまっているところもあるのですが、「何でも訊いて」と伝えたら「なに訊いていいかわかんない」となりますし、ルーツを訊かれて説明したら「大丈夫、気にしてないよ」「君は君だから、それでいいじゃん」って言われて興味をなくされるし、どうやって伝えればいいのかなって思って悩んじゃうんです。
それはもどかしいですね。
少し話が変わってしまうとは思いますが、ヘイトスピーチに対しても「わかんない」とか「そうだよね」で終わってしまうんです。お互いのルーツを通して理解し合っていたり、日本の歴史を理解していれば「あってはいけないことだよね」と世の中のことに関して高め合っていけるけど、無関心が広がっている現状も悔しいですし、自分についても興味を持ってもらえない無力感はあります。
船の上で説明をし始めてからこれまで、ご自身の説明スキルは上がったと思いますか?
今でも仲良い人に「あ、ウォンミョンって日本生まれなんだね」って言われたりもしますが、初めに比べれば上がったかもしれないですね。当初は歴史の話ばかりしちゃって、「よくわかんない、ウォンミョンはどうしてほしいの?」って言われることも多くて。「私たちに伝えて、どうしたいの?」って訊かれると「どうしたいも何も、一緒に考えたいんだよ!」って感情的になっちゃって伝わらないということがよくあったんです。
でも最近「歴史よりも、ウォンミョンの気持ちの方が伝わりやすいんじゃないの?」ってピースボートのスタッフにアドバイスをもらえたことで、大きな歴史じゃなくて、在日コリアンとしての生い立ちや、生きてきた中で感じたちょっとしたもどかしさを伝えていく方が良いんじゃないかな、っていう方向性に変わっています。歴史よりも先に、自分に興味を持ってもらうために。
マイノリティがカミングアウトする際、展開次第では話題が難しくなるケースや相手を感情的にさせてしまうケースがあると感じているのですが、その展開を予測してある程度の情報を予め提供しておく工夫の仕方もあるように思います。そのあたりはいかがでしょうか?
そういうことであれば、意識してやっていたなと思うのは『名前・出身国・国籍・在住地』などを先に言っておくことです。これは「いつ日本にきたの?」などの質問を予め排除するためで、そうすると相手のなかにある簡単な質問が早い段階で消えていくし、「ウォンミョンって、とにかく日本生まれなんだ」で一旦完結します。
周囲の在日の方とご自身で、説明のスタンスに違いは感じますか?
僕の周りには『私は私』という意志を持って、ルーツに囚われない子の方が実は多いんです。在日朝鮮人ってたくさんいるからこそ、人によって全く違う考えがあるとは思いますけど、でも「皆バラバラになっていっちゃったなぁ」と感じる部分もあるんですよね。それでも僕はシンプルに、このルーツで生まれた事実を大事にしたいんです。
「ただ在日コリアンとして生まれただけなのに、どうしてこんな気持ちを味あわなきゃいけないんだろう」と僕が感じていることが伝わったり、僕たちの存在の認知や理解がある程度でも広がれば、それでいいと思っているんです。でも「それは、日本にいる全員に在日コリアンのことを理解しろってことなの?」って言われたりして、僕としてはそういう訳じゃないけど、でも実際そういうことでもあるし、ごちゃごちゃしちゃうんです。たまに「僕はいったいどこを目指しているんだろう」って。
今後ご自身のルーツが、生きてく上で障害に変わって、自分に影響をしそうだなと思うことはあるのでしょうか?
今の日本政府のやり方を見ていると「果たして安心して暮らしていけるのかな」という不安はあります。例えば、震災などの災害時に流れるデマは気になります。追いつめられて他者を攻撃してしまったり、不安な気持ちから本来とは違う面が見えてしまうこともあるのは想像できますし、できるだけ僕はそうならないようにしたいとは思いますが、ちゃんと僕らのことが理解されていないと、社会が不安定になったときに様々な矛先が向いてくる気がして不安になるんです。ヘイトスピーチが、今の日本を顕著に表していると思います。
弊害が生まれてしまうことも感じているんですね。
日本国籍にしたら、今の弊害がなくなる部分も出てくると思うんです、選挙権を手にすることだってできますしね。でも、朝鮮籍という無国籍状態から、日本国籍という選択肢もありながら当時の自分が選んだのは韓国籍だったわけで。
在日の人に子どもが生まれて、まず悩むのは子どもの国籍です。朝鮮学校に進ませるかどうかで悩む人はいるかな、いないかな、最近は通う人も少なくなってるみたいですし…。このように、国籍のことも含めて『子どもを、どう育てるか』といった問題に直面することは多いと思います。
今お話いただいた、国籍とルーツといった現在生じている弊害と、在日コリアンが抱えている未来の社会問題って、ウォンミョンさんが生きる上で大切にしてきたテーマと重なる部分が多いですね。
はい、重なる話だと思います。人によっては国籍とルーツをくっつけて考える人と、別物として切り離して考える人がいるんですよね。そして「自分は在日としてのアイデンティティなんて持ってないよ」と言いながら、韓国籍を取得する方って多いと思います。選択時に日本国籍を取得したという方は、僕の周りにはいないですね。私は私と言っておきながら、『とはいえ』といった部分があるんでしょうか。僕の周りが朝鮮学校出身者ばかりだから、これに関しては様々な環境によって変わってきそうですけど。
これまで知り合ってきた方以外の、在日コリアンの方に出会う機会はありますか?在日かそうでないかといったところは、コミュニケーションでわかるものなのでしょうか?
ウォンミョンって名乗ると「私も実は在日コリアンで、いま名乗った名前は通名なんです」って教えてくれる方もいます。他に「おじいちゃんが朝鮮人らしくて」と、ルーツをよくわかっていない人もいますが、在日コリアンかどうかについては会話の中でわかっていく場合が多いです。例えば、親や祖父が日本生まれなのか、韓国本土生まれなのか、とかですね。自分が在日だとわかっていない人や知らずに生きている人っているんですよね。
在留カードでわかるものではないのですか?
親が家族全員の日本国籍を取得していたり、親自身が先に日本国籍を取得していた場合などで朝鮮籍が分からないようになっている人もいるんです。僕の周りで30歳になるまで知らなかった人もいて、在日コリアンだとわかってから自分のルーツについてすごく調べていたので、「やっぱり気になるだろうし、知りたくなるんだろうな」と思っていました。でも、そういうことってきっと多いですよね。
様々な反応や意見があるかと思いますが、ウォンミョンさんが今まで人に伝えてきて、一番残念だった反応はどのようなことでしょうか。
「謝って欲しいの?」とかでしょうか。「ウォンミョンは、俺たちに何をして欲しいの?」って言われると、残念というか、話したいことが伝わっていないなと感じます。「そういう話をしたいんじゃない、もっと漠然と、ただ一緒に話し合って理解を深めたい」って思いますし、あとはやはり、伝えたあとに「そういうの気にしないから」はショックです。「君は君だよ」って投げてしまうのはある意味、残酷です。
残酷、という単語を選択する気持ちは想像できます。
あの時の、結局「ありがとう」って言わなきゃいけない感覚…。「あぁ、興味ないんだろうなぁ」って思うんですよね。逆に好感を持てるのは、何かしら興味を持ってくれる、心が開けている人です。「ウォンミョンのおじいちゃんは、なんで来たの?」などの素朴な疑問をぶつけられる方が、人として付き合っているなって感じがするんです。絶対に何か思っているのに訊いてこない方っていますから。自己紹介でわかるんです、間が開いて「あぁこの人、停まってる」って。もっと初対面でも、軽く訊いてくれたらいいのになと思うことが多いです。
今回お話を伺って、ウォンミョンさんは名乗る瞬間にカミングアウトの決意を込めているのだと思いました。
この名前で生きていくことは、自分なりに覚悟しているんです。就職や進学を機に日本名へ変えている友だちを見ながら「こうやって周りは変わっていくけど、自分は変えないでいよう」って。
その覚悟を培ってきたのは、何のためだと思いますか?
コミュニティでしょうか、友だちもいますし。育ってきた環境は居心地も良かったですし、みんなのことを好きだったんです。
ありがとうございます。最後に、これを読んでいる方へ何か伝えたいことはありますか?
大学で、日本学校の友だちに対して『本名宣言』をやる人もいるんです。僕は本名を名乗って生きていますが、在日といっても多様な人がいるので、僕の意見が在日の総意ではありません。一人のルーツを通して、日本にも多様な人生があること知ってもらって、少しでも日本のマイノリティに興味もってもらえたら嬉しいです。そういうことを伝えていきたいです。
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