IgA賢症&バセドウ病 – くよくよしても、切り替える[前編]
2018年6月6日
カミングアウトストーリー
ふたつの疾患を抱えているとのことですが、最初に発覚したのはどちらですか?
最初はIgA腎症で、きっかけは小学1年生のとき、麦茶色の尿が出て緊急入院をしたことです。その際は「おそらくIgA腎症だろう」と病名の断定はなかったのですが、高校3年生のときに医師から「このままIgA腎症が進行していくと人工透析になる」と言われてしまって…。あれってすごく大変じゃないですか。血を一週間に3回も4回も入れ替えなきゃいけない人もいるようで、体力的にも厳しいから、若いうちに治療したほうがいいと言われました。
治療をするための検査を受けたのですね。
はい。治療するためにはIgA腎症と断定しなきゃいけないので、腎生検という検査を受けました。局部麻酔をかけて、ぶっとい針を腎臓に刺して細胞を抜いて調べてみたら、やっぱりIgA腎症だったんです。ちなみにこの検査のおかげで、高校の卒業式には出られなかったんですよね。
それは残念でしたね…。
そうですね。そういうわけで治療が始まっていくんですが、有効な治療法のひとつに扁桃腺摘出手術というものがあって、内容としては「扁桃腺の摘出により何かしら良い兆候がみられることを期待する」という話でしかなかったのですが、医師の勧めもあって手術を受けてみたんです。
大学1年生の夏休み頃のことですね。IgA腎症における扁桃腺摘出手術って日本が先駆けらしく、しかも扁桃腺って、大人になったらあってもなくても良いものなんですって。風邪を引いたときに扁桃腺が腫れて扁桃炎になっちゃう人は、大人になったら取っちゃう人もいるみたいで。僕の場合は全摘出しました。
そうなんですね。それで手術には効果があったのですか?
もともと尿検査では潜血(※1)と蛋白(※2)があったのですが、潜血が治ったんです。ゼロになったんです。だから、扁桃腺摘出は僕には効果があったみたいですね。
その後ほとんど時期を空けずに、もうひとつの治療法であるステロイドパルス療法を受けています。色々な治療に使われているようですが、ステロイドを短期間にガーッと身体へ点滴で入れて、少しずつ時間をかけて飲み薬で流していくというやり方だったんですが、その結果、尿蛋白も減ってきたんです。この2つの手術・治療が効いたおかげで、今ではとても良くなってきています。
ステロイドパルス療法による副作用はなかったのでしょうか?
「糖尿病になることがあるか、ならないにしても血糖値は上がるかも知れません」と言われて、母方が糖尿病の家系だったので不安はありましたが、患者全員に副作用が出るわけではないし、今できることをやろうと思って受けてみたんです。結果としては糖尿病も出ず、血糖値も上がらずに済んだので安心しました。他のリスクとして、長期的な強い成分の投薬による骨粗鬆症もありましたが、ステロイドパルス療法を採用して短期間で一気に治療をしたため、発症はありませんでした。
小学生の頃の話に戻るのですが、麦茶色の尿が出て検査の度に引っかかることを、当時どのように受け止めていましたか?
いま思い出すと、みんなは引っかからないのに僕だけ尿検査で再検査になるのが嫌でした。検査結果が友だちにバレるようなことはなかったし、先生の対応で嫌な思いをしたこともなかったのですが、検査に引っかかるという事実に対して子ども心に「あまり知られたくないな」といった感情を抱いたのだと思います。
その状況は、中学校へ入っても続いたんですよね?
はい。でも僕、中学のときに周りへカミングアウトしたんです。「俺、腎臓が悪いんだよね」って。
小学校では隠していたのに、なぜ中学校でカミングアウトをしようと思ったのでしょうか?
部活が始まることに伴って、疲れやすい身体であることやそこまでの無理ができないことを顧問の先生や部活の先輩に話した頃から、隠していてもしょうがないなと思うようになったんです。あとはそうですね。尿検査の結果がどうだったのか説明するのが面倒で、もう全部話してしまおうと思ったのもありますね。
尿検査の結果の説明ですか?
中学生の男子って、尿検査の結果について訊き合いますよね?前日にマスターベーションをしたら尿蛋白値が上がるから、って理由で。
確かにありましたね。「前日しただろ?」ってなりますよね。
僕も一回、ダメだとわかっていたのに検査の前日にマスターベーションをしてしまったんです。検査結果は前月プラス1なのにプラス3で、それを聞いて母がびっくりしてしまって。僕は「あー、前日やっちゃったからだー」でいいですけど、母には申し訳ないと思いつつ言えなくて。笑
中学生らしい話でリアルですね。笑
僕もこういうの、面白いと思います。そんな風に、周りの友達に知ってもらうことで気も楽になったので、結構言いふらすように伝えていました。見た目じゃわからないからこそ、言わなきゃわからないと思ったのもあります。
先ほど部活の話が出ましたが、大変なことも多かったのではないですか?
はい。熱を出すと体もだるくなりましたし、本当は激しい運動をしちゃダメだったんですけど、どうしてもやりたくて本気で身体を動かしていたので、症状が悪化したこともありました。テニス部だったんですが、土日も朝7時から夜9時までずっと動きっぱなしで、平日は朝練もあったので。でも体調の悪さを気持ちでねじ伏せていたので、帰ってドッと疲れが出るといった感じでした。「体調悪いです」と言うのが嫌だったんです。
そういう日々の中で、周囲にカミングアウトしていたことはどのような効果があったと感じますか?
そうですね…。当時の僕は周囲に言いふらすという形をとることで、自分に「大丈夫なんだ」って言い聞かせるみたいな、自己防衛のために言っていた部分があるかもしれないですね。言うことによって周囲も配慮してくれますし、先輩も同期も気遣ってくれていたと思うので、そこで自分を守っていたのかもしれないです。話さないことで「なにサボっているんだ」と誤解を受けることもあるかもしれませんが、話したことで理解してくれていたのかな、と思います。
その際、周りの方は状態の理解をしていても、病気の概要までは理解していたのでしょうか?
なので僕はいつも、みんなに説明をしていました。「僕の腎臓は、みんなより網が粗いんだ」って。医者にもそう説明されていたからなんですけどね。腎臓って老廃物を濾していらないものだけを出す臓器で、要はザルのようなものなので、「みんなの網はみっちり詰まっていて潜血や蛋白が出ないようにしているけど、僕の腎臓は網が粗いから出ちゃいけないものが出ちゃうんだ」って。こんな感じで話したら、みんな「そういうことね」ってわかってくれたんです。
とてもわかりやすいですね。例えば症状について説明をしているときに、過剰に心配をされたりなど、特別な接し方をしてきた方はいたんでしょうか?
いや、いなかったですね。たぶん見た目に出てこないからというのもあるだろうし、良い友だちが多かったというのもあるかもしれません。テニスのダブルスでペアを組んでいた友だちからは「本当に大丈夫?」「無理しないでね」って言ってもらえたりして、配慮をしてくれていたんだなぁと思います。
でも、いまここでこうやってインタビューとして話していて、結構あのときは不安だったなって思い出しました。毎回、検査の結果が悪いから、どうしようって…。
年にどのくらいの頻度で検査をしていたんですか?
尿検査と血液検査を月に1回です。年間12回。
ということは毎月1回、不安や焦りを繰り返していたんですね。結構しんどくないですか?
そうですね、いま思うと結構しんどかったかもしれないですね。確かに振り返ってみると、あの検査は嫌だったかもしれないです。悪い数値は『プラス○○』と出るんですが、一般的な人はマイナス1かプラスマイナスゼロ、僕は潜血も蛋白も出ていて数値もプラス3や4だったんです。部活で腎臓が疲れ果てていたんだと思いますが、焦りがありましたね。中学時代が一番辛かったというか、一番病気と向き合っていた時期かもしれません。
幼い頃から感じていた、自分だけに起こる症状。
成長するにつれ理解してきた、周りとは違う自分の臓器のこと。体調のこと。できること、できないこと。
周りのため、自分自身のために鶴川さんが選択したのは、あえて周りに言うこと。説明することでした。
後半は、現在までの鶴川さんを形成した環境と話すことで得てきた疾患との向き合い方、人生との向き合い方についてお話ししていただきます。
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