ギャンブル依存症 – 目の前に差し出された手を掴む
2016年9月17日
カミングアウトストーリー
三宅さんはギャンブル依存症だったということですが、アルコール依存症やギャンブル依存症というのは、耳にする言葉でも、あまり馴染みがないという印象なのですが、実情はどうでしょうか?
そうですね。確かに、楽しくお酒を飲んだり、趣味の範囲内でギャンブルをする方がほとんどですよね。たまに飲み過ぎたり、少し遊び過ぎたりという事はあっても、痛い思いをして次からは止めようという事になる。なので、まさかお酒やギャンブルで問題を起こすなんて・・・と思うわけです。しかし、中には何度も同じような問題を繰り返しながら、自身でも何とかしなければと思いながらもコントロール出来ない人もいるんです。明確な診断基準はあるのですが、おおよそそのような状態を‘依存’と呼んでいます。
一昨年夏、厚生労働省研究班は依存症者数についての推計を発表しています。治療が必要なアルコール依存症に罹っている成人男女の数が約109万人、また、ギャンブル依存症の疑いにある成人男女の数が536万人ということです。この数をどのように捉えるのか?依存症者の周りには家族や友人、会社の同僚など様々なつながりがあり、本人の依存の進行により次々と巻き込まれていきます。そう考えると、依存症で何かの困りごとを抱えている方はとても多いと考えられます。しかし、「まさか依存症だなんて・・・、そんなはずはない。本人の意志が弱いだけじゃないか」と本人も周囲の人たちも思うので(依存症の否認と呼んでいます)、そうとは知らずに問題が進行していくケースが多いと感じます。日々、報道されている飲酒運転や遊ぶ金欲しさの窃盗・強盗などの事件事故。それらを見聞きするたび、背景に依存症の陰を感じずにはいられません。
三宅さんが参画されている取り組みについて教えてください
私が勤務しているワンネスグループは理事長の矢澤祐史を中心に、11年前、依存症の状態にある方たちの回復(依存対象を使わずに生活を続けていく事)支援のための施設運営からスタートしました。今では、奈良、沖縄、名古屋などの各拠点で7施設、およそ120名の利用者の皆さんにお越し頂いており、50名以上のスタッフが回復支援を行っています。
回復支援の過程で、必要なことが数々出てきました。回復のためのプログラムを海外並みに引き上げるための研修や講師の国内招聘、海外組織との連携、本人を取り巻く環境として家族の皆さんへの支援、家族と連携した本人介入のシステム、回復の軌道に乗った方への社会復帰(就労)支援、依存症を背景に持つ触法者の回復支援など、実に様々です。
そして今、力を入れているのは依存症についての啓発活動や予防教育活動です。「知ることは防ぐこと、知ることは解決のための第一歩」というキャッチフレーズを使って、全国各地で「依存症を知るセミナー」を開催しています。また、矢澤代表が設立した、日本アディクション・インタベンショニスト協会を通じて、著明な海外講師によるワークショップを開催し、新しい依存症の解決策を依存症関連業界以外にも広く伝えていくための仕事もしています。
三宅さん自身、依存症だった時は、どんな状態だったのでしょうか?
依存症の渦中にいたころ、よく呟いていた言葉があります。
「心から血が出てるな・・・」
ギャンブルによる借金を抱え、それなのにギャンブルで増やして一気に返したいと給料を使い果たす始末。ヤミ金にも手をだし、返済に困ったあげく社内窃盗や横領までしました。他の会社を同様の問題で解雇になったにも関わらず、同じことを繰り返している自分がいました。「一体自分は何をやっているんだろう、どこでこうなってしまったのか、普通でいい、ただ普通の生活がしたい。」けれど、その普通の生活を手に入れるための方法は、ギャンブルをして勝つという事しか思い浮かばなかった。矛盾を抱えて、でも悪いことをしながらギャンブルをして、負けて、死にたくて酒を飲んで。でも朝が来て。身も心も渇ききっていました。カスカスの心から血が滲み出ているような感じ。それが一番酷い時でした。
はじめからこんな状況に陥っていたわけではありません。ギャンブルもお酒も、初めは適度にコントロールする事ができていました。なので、私自身も依存症だとは思えませんでした。いつの間にか、生きる上で無くてはならないものに変わっていったのです。
三宅さん自身は、依存症であることをカミングアウトされていたのでしょうか?
私も、依存症から回復するために10年前に施設を利用しました。その当時は自分が依存症だとは施設利用者のような当事者同士の間でしか言う事ができませんでした。施設利用中にプログラムの一環として仕事に出るのですが、就職活動においても依存症の事は言いませんでした。絶対に受け入れてもらえないという思いがあったからです。
当事者以外の人にカミングアウトするきっかけになったのは、施設退所後の事です。それまでは、当事者間で正直な話をし合う、いわゆるミーティングへの参加だけでギャンブルやアルコールを止め続けてきたのですが、そのやり方に行き詰まりました。そんな時、依存症回復のための伝統的でベーシックな手法に出会う機会に恵まれたのです。その中にあったのが「埋め合わせ」というものです。
「埋め合わせ」ですか?
過去、恨みに思った事や恐れた事、人を傷つけた事などを膨大な表にまとめ、その事柄から、自身の側だけを徹底的に見つめ、問題点が有れば相手に直接謝りに行くというものです。恨みや恐れに思ったことも、自分の側を見た時に実は身勝手だったり自己中心的な考えで接していたりすることもかなりあるんですよね。なので、私はそのような相手も含め各地に謝りに行きました。そこでは、いつも自分の心の中にあった誤解が解けていく感覚や、相手の人たちが私に対してずっと心を寄せていてくれた事に気付かされました。
お話にあった、元上司の方のお話ですが、これは私が不正を働いた会社へ謝罪に行ったときの事です。その会社へは、本当は毎月弁済金を支払わなければならなかったのですが、施設入所にあたってその約束を中断して以来、そのままになっていたのです。警察に突きだされたらどうしようと思いましたが、率直に謝るしかないと心を決めて待ち合わせ場所へ向かったのです。
元上司には、これまでの経緯を話しました。依存症だという事と、今回の行動は私が依存を止め続けるために必要な行動だという事も。「そうか、今はそんな活動をしているんだね。良かったな。それは続けていくべきだ。」と声をかけてもらいました。依存症なんて関係ないと怒られるかと思ったのに、その逆の言葉だったので、驚きました。
弁済金を止めていた事を詫び、支払いを再開したいが今の収入から考えて、額を減らしてもらえませんかとのお願いをしました。「それでいいんだよ!あなたが毎月続ける事が大切。もし厳しかったら、今月は更に減らしてほしいとか言ってくれれば良いんだから!」との言葉。そして、もう一つ、以前は言えなかった事。「すみません、実はあの時、他に盗んだ物があって…」私は覚悟を決めていました。たとえどうなっても、とにかく正直に告白することしかないんだ。
「分かっていたよ。」
目の前の上司が言いました。「そんなの分かっていたよ。でも、あなたが返すのは、この弁済金で良いから。」「これからも、その行動を続けてな。両親にはもう心配かけるなよ!」
私は、人を誤解していたな、そう強烈に思いました。
どうせ他人は受け入れてくれない。基本的に人は冷たい。
僕自身が、そんな人間だったのかもしれません。
あたたかいな。僕も、そんな人間になりたいな。
もちろん、このような結末だけではありません。連絡がとれない方もいましたし、連絡が取れても怒りに終始したり、冷たい一言だけが投げかけられたり。その都度、思いました。「そうだよな。僕はそれだけの事をしてきたんだから、当然だ。僕は依存症者だ。止め続ける事しかない。」
その後、2011年にワンネスグループに転職してからは、自身の経験をもっと多くの人に知って頂けたらとの思いで、テレビや新聞などを通して依存経験を話し始めました。
家族は当初、困惑していました。私には兄弟がいます。「それぞれの人生の妨げになるのではないか、いや依存の渦中にいるころから散々傷をつけてきたのに、自分の経験を公にする事でもっと傷つくんじゃないか・・・。」
相当悩みましたが、やはり経験を多くの人に伝えたいとの思いが強く、幾つかのルールを設けながら、行動を続ける事にしました。
強い信念の背景には、矢澤代表の言葉があります。
「私たちは、昔は後ろ指をさされるような事ばかりしてきた。けれど、今はそうじゃないですよね。」
転職自体を迷っていた私に、代表がこうメールしてくれたのです。私の迷いは吹っ切れました。そうだ。僕はいま、責任ある人生を歩んでいるじゃないか。
今も家族は全面的にとは言えませんが、私の活動を応援してくれています。
できるなら全面的に応援したいんだよ、という家族の思いも理解しています。
私が依存から回復し続ける。人生をより良いものにし続ける。
家族にどう見られるかではなく、自分自身がどうあるか。
この結果、いまの家族との関係が有るのだと思います。
2年前に結婚し、5月に子どもが産まれました。
あの時の自分には考えられない事です。
嫁さんとの3人の生活は学びの宝庫です。
喧嘩はしょっちゅうですが、でも、そこからも学び成長しています。
娘には、どこかの時点で、お父さんは依存症者だということを話します。
そのタイミングは嫁さんとじっくり考えていきます。
依存症で悩んでいる方たちに対してメッセージをお願いします。
依存症という問題には、解決策があります。
苦しいです。何とかしたいけどどうにもなりません。
依存対象を手放さなきゃいけない不安、色んな隠し事が明るみに出る怖さ、全て私も経験してきました。私だけじゃない、多くの人が同じような経験をしてきました。
だけど、ある時、目の前に差し出された助けの手を掴みました。そして、今があります。
私たちは色んな場所で、手を差し出しています。
ほんの少しの勇気を持って、その手を掴んでください。
依存症かもしれない?と思う方が周りにいる方たちにもメッセージをお願いします
「止めなさい!」「なんで止められないの!」という言葉は、できたら使わない方がいいです。本人も分かっているんです。けれど止められないのが依存症です。
依存症から派生する様々な問題を、周りが肩代わりするのも良くないと、私たちは経験を踏まえてお伝えしています。
感情的にならず、しかし、懸念は伝える。
問題は周りが解決せずに、本人に返してあげる。
そして、本人が相談してきたら、もしかしたら依存症かもしれないこと、自力ではどうにもできないので専門機関に相談したり、施設などの社会資源を使うように伝えてください。
ワンネスグループでは無料の相談ダイアルや相談メールを設置しています。
相談ダイアル 0120-111-351 (原則10時から17時まで)
相談メール sos@oneness-g.com
また、LINEの公式アカウントも開設しています。
@oneness-g
こちらからも相談が可能です。
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