吃音 – 今は好きな自分が増えてきた[後編]

吃音 – 今は好きな自分が増えてきた[後編]

2018年8月9日

カミングアウトストーリー

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吃音を持っている人は成人の0.8〜1.2%にあたり、日常生活において非吃音者が想像するよりも多くの困難があると聞きます。今回は、吃音症をお持ちの菅野さんにインタビューをさせていただきました。(前編から続きます)

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吃音であることも自分の特徴の一つ
今のお仕事を始めてから、職場の方の反応はどのようなものでしたか?

いじってくる先輩もいて、たぶん好意的に僕のものまねをするんだけど、嫌な感じなんですよ。俺こんな風に喋ってたんだ、っていうのがすごく嫌だったんですけど、いじってくれるだけマシなのかなとも思って。大学の友だちとは深いところまで話せたんで、ものまねをされることはなかったけど、大人になってからものまねをされたのはショックでしたね。

吃音であることで感じる生きづらさやストレスは、年齢や境遇とともに変わったりしているのでしょうか?

社会人になって、いろいろな障害を知り、自分をどんどん客観視できるようになる中で、吃音であることも自分の数ある特徴の一つと思えるようになりました。最近調子が良くて、ありがたいんですけれど。

いつから調子は良いのですか?

職場で役職をいただいて、責任ある立場になったのが大きかったかな。コンプレックスの塊みたいで、卑屈になっていた若者時代でしたけど、自分を客観視できるようになって、自信が出てきた時に徐々にそれが軽減してきたんだと思います。

菅野さんは児童と接するお仕事をされているそうですが、子どもと喋っていて吃音が出た時の感情は、大人同士の場合とは何か違いますか?

昔は子供を指導しないといけないと思っていたし、思いを伝えたいというのがあったので、うまく伝えたいのにできないのは不甲斐ないし、苦手でしたね。
子どもの話をまとめたり、一緒に集団行動をしたりができないから子どもがバラバラとした状態になっちゃう、みたいな。一対一の時はスイッチが入るので、うまく喋れたりするんですが。

子どもから噛んだことを指摘された時は、どのように感じますか?

言い訳をしたり、ごまかしていましたね。以前は子どもに対して「自分が上」と思っていたので。下の存在から指摘を受けるのはプライドが傷ついたんだと思います。

自分でうまくまとめられないなって思うのと、子どもに指摘されるのは異なる感情なのでしょうか?

向こうからの発信で揺さぶられるので、一人で思っている時よりショックはすごく大きいと思います。

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子どもに対して、吃音の話をしたことはありますか?

昨年度ぐらいからまずは職員に言えるようになって、そのあと最近少しずつ子どもたちに言っています。同じように吃音を持ってる子もいるし、僕の担当の児童で緘黙(かんもく)(※)の子もいたんですが、今年度になって伝えましたね。その子も苦しんでいたんですけど、すごくちゃんと聞いてくれて、よかったと思っています。

(※)緘黙:家庭などでは話すことが出来るのに、社会不安(社会的状況における不安)のために、ある特定の場面・状況では話すことができなくなる疾患(Wikipedia場面緘黙症より引用)
伝えて、どのように感じましたか?

スッキリしましたね。聞いてくれる向こうの顔つきも違ったし、その後もちょいちょい話をしてきてくれて、話してよかったかなと思っています。僕自身、昔に比べて吃音について話すことが恥ずかしくなくなってきたと思います。今は子どもより自分が上という意識がないのも関係あるかもしれません。

数年前から吃音が落ち着いてきたのが仕事上の責任を負うことになったから、ということと、子どもに対しては目線が下がったというのは、逆のようで面白いですね。

どちらも繋がってる気がしますね。人間として成長できたっていう、それと同時に謙虚さが身についてきたというか。本当に健康になっている感じがすごくします。まだまだ自分が嫌いだけど、好きな部分が増えて。

健康というのは?

精神がですね。今は長生きしたいって思える。昔は鬱々としていたので。子どもが生まれて、帰る場所ができたのもあるかもしれないですね。僕にとっては娘の存在が大きくて。家族ができたっていう意味で、結婚したことは関係あるかもしれないですね。

家族ができて、職場で責任が上がって、という状況が良い影響になっているのですね。それまでは、どのようにご自身を認識されていたのでしょうか?

自虐的な、そして変わってる自分が好きで、変なナルシスト感がありましたね。不健康ですけど。それらがコンプレックスでもあり、また自分を支えているところでもあり、という。

では最後に、自分が吃音かなと思っている人や、吃音で気持ちが引っかかっている人に伝えたいことがあればお願いします。

理解者を増やすことですかね。増やそうと思って増やせるものでもないので、意外とできないものなのですが…。僕の場合は妻もそうですけど、周りにそういう人がいたのは運がよかったのかなと思います。
あとは、吃音って自分が思っているよりも周りは気にしていないぞ、ということですね。それがわかっていながらも気になるのが吃音の人の人生だと思うから、それはもうしょうがない部分もあるのですが。

僕は(バブリング代表の)網谷さんとの出会いが大きくて。開口一番ゲイだってカミングアウトされたのが「なんだ?この人」って思ったんです。そんなに簡単にカミングアウトってしていいんだって(笑)。自分が言えないと思っている悩みでも、もっと軽く考えてもいいんだなって。だって、開口一番ゲイですよ(笑)。

カミングアウトって、メリットないんじゃないかって思っていたんですけど、自分の悩みの重さと軽さをきちんと考えて、自分なりのカミングアウトができるならデメリットってないのかなって思います。

これまでのことを思い出しながら、落ち着いた口調でお話しいただいた菅野さん。統計によると吃音の症状を持っている人は成人の0.8〜1.2%(5歳までの子供では約5%)と言われています。子供の頃からずっと悩んできたというお話は、非吃音者にとっては想像もしないものかもしれませんが、この記事を読んでいただいた非当事者の方や、それから吃音の当事者の方にとっても参考になるお話が多くあったのではないかと思います。改めて、菅野さん貴重なお話をありがとうございました。

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