身内が失踪 – だから、ひとりじゃない [対談-後編]

身内が失踪 – だから、ひとりじゃない [対談-後編]

2018年3月2日

カミングアウトストーリー

ダルtitle
前編では、ダルさんとゆきさん、それぞれの境遇をお聞きしました。
ダルさんにとって初めてのカミングアウトはどのような感じだったのか、お話を伺いました。

初めてのカミングアウト
ダルさんとの出会いの話に戻るのですが、これまでしていただいたような内容を、どちらから先にお話されたんですか?

ゆきさん(以下ゆ):私からしました。最初に会った時から「何かあるな」って思ったの。すごい若いのに福祉に興味を持っているし、だいたい笑顔が素敵すぎる人には、何かあるなってずっと思っているんで(笑)。

普通23歳で興味持たないし。こんなカッコイイ見た目で「彼女ずっといないんです」っていうのを聞いて「コレは絶対に何かある」って、引っかかってはいました(笑)。

シチュエーションをもう少し詳しく伺いたいのですが、何人くらいの飲み会で、どのようなタイミングだったのですか?

ダル(以下ダ):10〜20人くらいで、飲み会の中盤以降だったかな。僕はいろんな席に連れ回され、挨拶が一通り落ち着きました、席戻ってきました、っていうところですね。

ダルさんは、どんな印象だったか憶えていますか?

ダ:印象は…何だろうなぁ。こういう活動をしている人には何かがあるというのは僕も思っているので、「あなたには、そういう経験があるのね」っていう感じで、素直に受け止めましたね。自分にも経験があったから、家族の話をされても全然動揺しない状態ではあったんで。ただ、扉は開けたかなという感覚はありました。おそらくゆきさんが言ってくれたから、自分も言える、という風に思えたんです。

それで「自分もこういう境遇なんです」と話したのですか?

ゆ:初めて会った飲み会の少し後に聞いた気がした。あ、それは詳細バージョンかな? 飲み会からスーって仲良くなって、頻繁に連絡を取ったり、ご飯行くようになって。

ダ:その後、電話で自分のことを話したよね。僕から発信することはそれまでもあったけど、双方向で話ができることはなかったから。そういう意味で印象に残っていますね。

ゆ:頼れる人がいない状態で東京にいるって聞いた時に、何かあった時に守ってくれる家族のような人ができるまでは「私が姉のような存在でいよう」って、よくわからない決心を固めました。

そう言われてどう感じましたか?

ダ:安心感じゃないけど、何でも話せる人がいるっていう感覚はありました。それまではずっと心を閉じていたので。

今までも人と関わることはあって、でも飲み会以降に自分のことを他人へ話せるようになったのは、ゆきさんが先にオープンにしてくれたことが大きいですか?

ダ:大きいですね。

ゆきさんは、ご自身のことをいつからオープンにされているのでしょうか。

ゆ:今はオープンだけど、カナエールボランティア1年目の時は言えなくて。変な目で見られたくないという気持ちがあったんですけど、2年目ぐらいからオープンになっていました。

ダルに会った時には、私の生い立ちについてみんな知っている状態でした。ダルと私はたまたまどちらもIT系の会社だったので、仕事上の苦労話もお互いにできて、ぎゅっと距離が縮まった気がします。

カミングアウト、その後
最初からぎゅっと距離が近づいて、姉弟のような存在になって、今はどのような感じでお互いのことを思っていますか?

ゆ:出会った時にはお互い独身で、でも今はお互い結婚していて、良かったなと思っています。

パートナーができたなどの話は、お互いにしていたんですか?

ゆ:話はしていましたし、私は私でこんな生い立ちですし、今は晴れて旦那さんになりましたけど「彼と結婚できるかどうか不安だ」ということは相談していました。お互い、普通の友達には話せない悩みを相談していましたね。

ダルさんのパートナーはカナエールのボランティアをしていた方だから、児童養護施設や福祉の話もしやすかったと思うのですが、ゆきさんのパートナーはどうですか?

ゆ:普通の方ですね。児童福祉にも関連のない人です。

ご自身の生い立ちについては話されているんですか?

ゆ:ひと通り話しています。ただ最初の頃はなんて話していいかわからなかったので、今まで取材を受けた新聞とか雑誌のインタビュー記事を見せてました。

でも、結婚を意識した時に「お母さんと仲直りできないの?」って彼に聞かれて、それがすごいショックだったんです。同時に、そんなことを言わせてしまうぐらいこの人に自己開示できていないんだな、っていうことに気づいて、付き合って2年目に初めて全部を話しました。

今は彼のご両親も受け入れてくれて、「甘えていいよ」とも言ってくれるので、その辺で悩むことはないです。

おふたりは今、お互いに結構オープンにされているのだと思いますが、そのような関係性の人は他にもいるのでしょうか。

ダ:いないよね。

ゆ:いないよね。喧嘩とかもしたよね。恋人の前だといいところを見せよう、みたいなこともあるけど、そういう気の遣い方をしなくていいし、本当に姉弟みたいな感じですね。

あらためて今、お互いをどう見ていますか?

ダ:ゆきちゃんは、すごい素直で天然が混じってるよね。

ゆ:それ、旦那さんにも言われる。しっかりしているんだけど、ところどころバカだよねって。

ダ:包み隠さないんだよね。

自然体ということですか?

ダ:そうそう。だから一緒にいてストレスがない。

逆にゆきさんに、ダルさんはどう映っていますか?

ゆ:努力家だと思っているかな。

ダ:ゆきちゃんと会って、自分の中で本当に行動が変わったんですよね。もともと自分は、ひとりで黙々と勉強してるような人だったんです。分厚い参考書を持ってカフェとかでずっと勉強していて、資格を取ることに何かを見い出していたんです。

自分は将来、ずっとひとりで生きていくと思っていたので。それがゆきちゃんとの出会いから、人との繋がりもできるようになったんですよね。

ゆ:ちゃんと自分と戦っていたように見えます。自分と向き合わない人も多い中で、ダルは自分と向きあっていたなって。

ダ:誰の助けも借りずに生きていくって思っていたのに、自分を支えてくれる人、守ってくれる人がいるってわかったのは大きかったです。明確に言葉にして、伝えてくれましたからね。

言葉にして伝えてくれたことで、どう感じましたか?

ダ:目に見える形で受け止められたんだなって。自分はひとりじゃないんだ、孤独じゃないんだって思いました。

そのおかげで、ひとりで生きていくという前提が崩れて、誰かの助けを借りたらいいんだって思えるようになったんです。スキルとか能力だけで生きていく、と思わなくていいようになったんですよね。黙々とひとりでやるのが9割なタイプだったのに、それが逆転して95%社交的になりました(笑)。

ゆきちゃんからも指摘を受けたんですよね。1年後の目標は「資格をとることです」って言ったら、「もっと他に遊ぶとか、彼女作るとかそういうことはないのか」ってお説教されて(笑)。

ゆきさんは、ダルさんの変化をどう捉えていますか?

ゆ:もともと人当たり良かったけど、出会った頃は『表面的に人当たりが良い』って印象だったのが、少しずついろいろな人に自己開示しているなって見てました。だから、彼女ができたことも嬉しかったですね。

本当に素晴らしい関係性ですね。それではおふたりから、何かをカミングアウトしようと思ってる方へのメッセージはありますか?

ダ:境遇は違えど、悩みを抱えてるのって自分だけではない。みんな何かしら抱えていて、打ち明けられないって思っているから、ひとりではないことを知ってほしい。

自分の持っている境遇は小さな枠組みの話でしかないから、たくさんの情報に触れて、大きい枠組みでマイノリティを捉えて欲しいです。そうしたら自ずと、ひとりじゃない、ということがわかると思うので。

ゆ:「ひとりぼっちじゃないよ」っていうのは同じメッセージですね。

話したことで、つらい思いをしたこともありました。「あなたがお母さんの年齢になれば、お母さんの気持ちがわかるんじゃないないの?」と言われて、この人には話さなきゃ良かった、って思ったこともあったけど、話して良かったことの方が多かった。

だから、恐れずに話してほしいな。

カナエールを知ったのも、前職の社長に親のことを話していたんです。そうしたら「あなたの興味が湧くと思うから」と紹介をしてくれて。そこから世界が一気に広がりました。だから、話して良かったと思えることの方が多いですね。

逆にカミングアウトを受ける人に対するメッセージはありますか?

ゆ:自分の過去の話をして泣かれちゃったこともあるけど、私にとっては通り過ぎた過去のことだから「あー、そうなんだー」くらいで受け止めてくれた方が楽ですかね。

ダ:その人にとっては、その話がゆきさんの『すべて』って感じになっちゃったのかもしれないね。でも、あくまで一部のことでしかないしね。

カミングアウトをする人には恐れがある一方で、される人の捉え方には個人差がある、ってわかっているんですよね。だからカミングアウトされたってことは、そのこと自体に満足してもいんじゃないかって思います。それだけ大事な話を伝えてもらえるような存在だ、ということだと思うので。そんな自分のことを讃えてもいいんじゃないかって思います。

そうですね、それだけ関係性ができているってことですよね。大事なことを伝えたい誰かが頭に浮かんだら、それだけでもう「ひとりじゃない」のかもしれません。

貴重なお話をしていただいて、本当にありがとうございました。

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