ゲイ ‐ きみが教えてくれたこと [対談-後編]
2017年6月9日
カミングアウトストーリー
ゲイであることを両親へカミングアウトをしたバブリング代表の網谷。
その場には親友である富澤さんも同席していました。
両親と向き合うことで見えてくる世界。そこで再確認する友人のありがたさ。この体験で得たものを次の世代…これからカミングアウトをしようと思う人たちへつなげる時、彼らは何を思うのでしょうか?
網谷と富澤さんの対談、後編のスタートです。
(前編はコチラ)
カミングアウトをした時、ご両親の反応はどうでしたか?
網谷(以下網):父からは「知ってたよ」って。ゲイ雑誌を持っていたことがばれていて、
それを更にトミという友達の前でバラされるっていう羞恥プレイを受けたよ。(笑)
母からは「そんなことより大学はどうするの?」って返ってきた。
お母様から大学の話が出たのは、なぜだと思いますか?
網:セクシュアリティ関係なく、子供として俺の将来のことが心配だったからかな。
富澤さんから見て、双方の反応はどうでしたでしょうか?
富澤(以下ト):あんまり覚えていないけど、言いづらそうな感じはあったかな。
俺も一緒にドキドキしていたし、これは相当な勇気を振り絞っているんだろうなって思ってた。
網:お前さ、俺が親に言った方がいいかなって思ってた?
ト:思ってたよ。そこは絶対乗り越えなきゃならない壁じゃない?
ただ俺自身はそんなに深く考えていなかったかな。網谷の親はちゃんとしていて、人をちゃんと人間の『個』として、しっかり見てくれる人達だったからさ。
中学生時代の俺は、保護者世代から好かれるタイプではなくて。髪の毛染めてみたり、ピアスとか開けてみたり、ちょっと非行に走ってみたりしてさ。嫌な親は嫌じゃない?でも網谷の親はそういった部分を見ても、関係なく俺と付き合ってくれたしね。
網:むしろ、うちの親はトミのことだいぶ好きだしね。
ト:そして俺も網谷の味方だし、何か変なことになったら喋るつもりだった。でもそんな俺の気持ちとは裏腹に、カミングアウトについては、すぐに終わり。そして大学についての親子喧嘩が始まり。(笑)
網:終わった後に言われたもんね。「俺いる意味あった?」って。
ト:まぁでもあったよね、その経緯に。
富澤さんがそこにいること自体に安心感があったんですね。
網:そうそう。トミは友達の家族の話だから介入しないっていう感じの人じゃなくて、ちゃんと自分の考えを言うときは言うってタイプだったから、何かあった時に『トミなら絶対喋ってくれる』っていう自信があったの。
去年もニュースZEROの収録前に俺がすごい緊張していて、トミに「お前にカミングアウトしたときってどんなだったっけ?」って電話してたの。その時もスタジオに着くまで「大丈夫、大丈夫」って励ましてもらってた。
こいつはちゃんと電話に出てくれるし、肯定的な反応をしてくれる。何かで不安になったときに、応援してもらおうって気持ちになるんだよね。
どういう風に応援してもらうんですか?大きく構える感じですか?それとも論理的に?
網:大きくドンって感じかも。大丈夫だよ、お前ならって。
ト:新しい行動を起こすことで、傷つくこともある。でも乗り越えなきゃいけない壁ってのもあるじゃない。
何もネカティブなことが起きなかったら「めでたし、めでたし」だしね。
俺にやれることといえば背中をポンと押すことくらいでね。あとのことをやるのは網谷だからさ。
先ほど第一印象の話をしましたが、関わり方や話す内容は変わっても、互いに影響し合う部分や安心感など、大きく深い部分は変わらないという印象を受けました。
では、カミングアウトの部分や今までのお互いのことを含めて「もっとこうすれば良かった」と思う部分はありますか?
ト:俺はある。カミングアウトされた当時『ゲイ』っていう言葉を知らなくて、それまで「女子っぽい」「オカマっぽい」って言いたい放題だったの。俺このワード何回も言っていたんだよ、絶対。
カミングアウトをされた時、まず一番に思ったのは『死ななくて良かった』っていう安心。その次が反省。知らなかったとはいえ絶対傷つけた、余計なことばかり言ってしまっていたっていう…。これからはそんなことを言うのはやめようって思った。
言葉・行動…振り返ればそんな些細なことがつながってつながって、セクシュアリティを傷つけることになっていたんだと、改めて気付いたんですね。
ト:そうだね。もしかしたら、網谷はちょっとずつサインを出していたのかも。
そこに俺は気づいていなかった。あれだけ仲良かったのに、網谷のとても大切なことに気づいてあげられなかったという部分にも後悔したし、傷つく言葉を口に出していたことには、これに関しては本当にダメなことだったんだって反省していた。
網:今の話を聞けば、もっと早く言っておけば良かったかなーって思った。
中学生の頃は『ゲイであること』自体が自分自身でもよくわからなくて、高校に行ったら変わるかな、この気持ちも治るかなと思っていたけれど…カミングアウトをするっていう選択肢が当時はなかったからさ。
もっとこうしたら良かったかな、もっとこうすればよかったかなという点に関してはどうでしょうか?
網:いや、ないかなー。周りに感謝はしてるけれど。
ト:もっとこうすればよかったって強く感じるのはこっちの、カミングアウトを『された』側だよね。
少しずつ、お互いを思いやり合うことの大切さを学ぶことができますね。
ではここでお互いに離席していただき、相手が居ない状態でお互いの事をどう思うのか聞いてみましょう。
網谷さんは、富澤さんのどういう人ですか?
網:トミってね、俺の中での『優しい人』っていう概念のベースの人なの。
優しいってことはすごいことだからこそ、俺は人のことを優しいって形容するのを避けているんだけど、そんな俺の中で優しさの代名詞はこいつなの。それはずっと変わらない。
ちゃんと人の痛みが分かるし、痛みがわかったということを言葉にできる人で、人の痛みを自分のことのように痛がったり、悲しがったりしてくれる。でもそれは同情じゃなくて「この痛みは網谷のものだからこそ、網谷自身の力でちゃんと乗り越えなさい」って言う強さも持ってる。だから、いつも優しいなーって思うんだよね。俺が俺でいてくれることをちゃんと見続けてくれていて、それを許し続けてくれている人。
口に出しては言わないんだけど、トミからの「お前が頑張るべき部分はお前自身が頑張ってこい。何があっても俺は絶対にお前の味方だから」ってメッセージはずっと浴び続けて生きている。
ありがとうございます。ではここで網谷さんに離席していただきます。
網:今ね、お前が優しさの代名詞って話をしていたの。
ト:そっか。俺にとってはそれが網谷かな。
次は富澤さんのみのインタビューです。
網谷さんが優しさの代名詞だと、どういう部分でそう思うのですか?
ト:まず人の嫌がることは絶対やらないし、人が嫌がることを率先してやるし、人を傷つけることは絶対言わない。で、その中でも俺が間違ってたら「間違ってる」ってハッキリと言ってくれる。仕事で困っているときも網谷が助けてくれて、親身になって相談を聞いてくれた。網谷に相談して、俺が泣かないことで網谷が泣いてくれたりもする。
網谷はその優しさを、俺なんかよりすごいグローバルにできる。それは並大抵じゃないと思うんだよね。いろんな人と関わって、いろんな人と話してるじゃない。仲間にも好かれるし。
網谷は俺の中で、人生の中で大きい存在。網谷がいなかったら、今の俺は無い。頑張ってる姿を見てるから、俺も頑張る。代表をしてるバブリングだってすごいことだと思う。
網谷が突っ走っていたら、俺も突っ走っていきたいし、俺が協力できることは協力したいと思うよ。
ありがとうございます。お二人がお互いをどう思っているのかよくわかりました。
インタビュー記事をお互いが確認するのが楽しみですね。
では、最後の質問です。
これからカミングアウトをする人・またはカミングアウトをされる人に対して何かメッセージはありますか?
網:「友達にカミングアウトをするのはエゴだ」っていう人、いるじゃない?
カミングアウトをされる側の立場を考えてないって意見をネットで見るけれど、友達ってそうじゃないと思う。
腹割って、辛いなら辛いって言い合えるのも友達だからできること。持ちつ持たれつの関係を大切にして、友達っていう関係を信じているか、どれだけ相手のことを人として好きか、相手との関係づくりがどうだったかが重要で、相手を信じる信じないよりも前の話だと思う。
富澤さんからはどうでしょうか?
ト:あなたの人生。主役は他の誰でもない。あなたの世界を作るのもあなた。世界は公平に不公平にできていて、あなたの世界で起こる良い事を引き受けた以上、辛い事も引き受けなければならない。
誰かに相談する事もできなくてひとり闘っていると思うけれど、そんなあなたはもう既に強い。なかなかできる事じゃない。よっぽど勇敢で痛みを知ってる美しい人間だと俺は思う。
カミングアウトして、傷つき傷つけられ、居場所自体が無くなってしまう事もあるかもしれない。俺も去年、仕事も仕事仲間も愛する人も失って、傷は深く大きいけど乗り越えられた。こんな俺でもできたから、万が一辛い事になってもあなたにもきっと乗り越えられると思う。
そしてね、世の中優しくて自分を理解してくれる人はたくさんいるよ。俺にとって網谷もそうだし、心から好きで信頼できる仲間に助けられていて、彼らの言葉や行動じゃなく、存在自体が俺を守ってくれている。大切なのは、俺もあなたもそんな人達から愛される素敵な人間になる努力をしていく事なのかもしれないね。
今は生きてるって独特の苦悩を歯食いしばって噛み砕きその苦みを笑おう。
自分を大切に他人を大切にゆっくりでも一歩づつでも前に進んでみよう。
あなたが幸せになれる事をここから祈ってます。
ありがとうございます
インタビュー自体は以上となりますけれど、最後に何か伝えたいことはありますか?
網:言い残したこと?
ト:言い残したことは、未来はあなたの手の中。修羅の向こう側の現実を掴み取れ。
網:こういうセリフっぽい発言してる時の顔すごいでしょ。
インタビューの文字でお伝えできないのがくやしいです。(笑)
お気づきでしたでしょうか。お互いが席を立ったとき、網谷も富澤さんもお互いの同じ部分を尊敬していると語ったことを。これこそがお二人を表すシーンだと思い記事に入れました。
相手からも、自分自身からも逃げないこと。迷ってもいい。ただ、逃げないこと。そしてそれを継続すること。私がお二人から受けたメッセージです。
26年。離れた時間はあったけれど、きちんと築いた友情は、そう簡単に壊れません。
きっと、これからもこの友情は続いていくのでしょう。朗らかな笑い声が幾度となく上がるインタビュー中、何度も思いました。
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