セクシュアリティ – カミングアウトよりも大事な作業[対談]
2016年10月29日
カミングアウトストーリー
セクシュアリティに揺れる、助さん。大学時代から助さんと仲の良かった、格さん。二人の関係は、カミングアウトを機にどのように変化したのでしょうか。そして、二人だからこその結婚のカタチとは――
助さん:私は岡山県出身で、高校卒業後に東京の大学に入りました。格さんとは、陶芸サークルで知り合って、もう10年が経ちます。
助さん:学生時代は、女の子と恋愛をしていたんです。だけど、「自分はゲイにちがいない」と思っていました。大学を卒業して2,3年経った頃、自分を騙すのはやめようと思って、いろいろと活動をしてみました。その時は、信頼できる人にはカミングアウトしていました。「最近はどうなの?」と訊かれて、「最近は男の方にいってるよ」と返していました。格さんにカミングアウトしたのもこの頃です。けれども、ゲイという枠に自分をあてはめてしばらくすると、「これもまた違うな」と思ったんです。「バイ」とみられても、「ゲイ」とみられても、しっくりこない。いろいろ悩んだあと、わざわざ「ゲイ」とか「バイ」という枠に自分をはめこむ必要はないと思ったときに、すごく楽になりました。
格さん:「男に走ります」という言葉をよく覚えています。最初、どういうことだろうと思ったのですが、ちゃんと聴いたら、本当にそういうことだったんです。
助さん:何か、「ゲイになるよ」みたいなのも違うじゃないですか。
格さん:「ゲイなんだよね」と言われたことはない気がします。
格さん:私は、彼が女性とお付き合いしたことがあるのを知っていたし、大学1年生のときに彼から告白をされたこともあるんです。だから、最初はすごく驚きました。でも、人としてすごく好きだし、「いいね」、「ありだね」と言いました。「言わなきゃよかった」と思わせてはいけないと思い、好意的な反応を心がけた気がします。カミングアウトされたのは、大学の先輩と3人でご飯を食べていたときでした。彼が席を立った際に、先輩と顔を見合わせて、「びっくりしたね」と言いました。でも、過ぎてみれば、しっくりきたというか。嫌だとか、悪い印象はなかったですね。
助さん:カミングアウトをしたことで、互いに恋愛対象から外れて、距離が近くなり、何でも話す間柄になりました。しばらくして、同性に恋をするということがよくわからなくなり、「ゲイ」とか「バイ」という枠に縛られずに生きようと思うようになりました。そしてある時、突然ひらめいて、格さんにプロポーズをしたんです。
助さん:カミングアウトをしたときに、「ゲイ」、「バイ」という言葉を使わなかったように、「結婚」という言葉は使いませんでした。「一緒に歩いていきませんか」、「隣にいる人としてどうですか」と提案をしたんです。結婚じゃなくても、一緒に暮らしていくのもいいし、一緒に暮らさなくてもいい。話し合って決めようというスタンスでした。最終的には、結婚という形に落ち着いたんですけどね。
格さん:酔っぱらっていてあんまり覚えていないんですけど(笑)言われたときは、「やだー」と言って、逃げ回っていたそうなんです。彼のセクシュアリティが理由なのではなく、私自身が結婚を全く想定していなかったので。でも、家に帰って、「なんだか嬉しいような気がする」という主旨のメッセージをやりとりしたことは覚えています。
助さん:彼女の中では、結婚という形は決まっていました。そこからはトントン拍子で、1か月後には、格さんの親御さんに会いました。その1か月後には、双方の家族みんなで会いました。
格さん:助さんの親やきょうだいから「助さんはゲイではないか」と、疑惑を向けられていたことはありました。
助さん:酔っぱらった時に一度、「俺もその気あるからなぁ」と弟に言ったらしく、その話を聞いたお母さんが、「えええ!?」って驚いた(笑)
格さん:「助さんってゲイなん?」ってお義母さんに聞かれたことがある(笑)
助さん:結婚するならいいか、みたいな感じだったのかなぁ。
助さん:私は一度、「男に走る」と格さんに伝えているわけじゃないですか。だから、本当にいいのかな、大丈夫かなと思って、プロポーズのあと、何度か確認しました。
格さん:今でも、「この人はゲイなのか」と思うと、不思議です。でも、助さんはずっと知っている好ましい人なので、あまり葛藤はなかったですね。
助さん:付き合いが長いからこその関係ではあると思います。でも、結婚も急に始めたことだし、二人で暮らすのは3年目なんですけど、この関係性に慣れた、というわけでもないですね。今は、恋人とか家族とか、諸々の役割を全部試しているという感覚があります。
助さん:名前を付けるとすれば、もう夫婦でいいんじゃないのという感じはするんですけど、実情は、それ以外のどんな名前を付けても当てはまりそうな気がします。未だに友達だよっていうのもアリな気もします。婚姻届を出しているので、法律上はもちろん夫婦なんですけどね。
助さん:決めなくていいじゃんという気持ちがあるんです。でも、外から見たら、「夫婦」だしなぁって。何でこんなにはっきりしないんですかね。
格さん:はっきりさせたくないんじゃないですかね。
助さん:多分、そういう方向に向いている気がしますね。自分のセクシュアリティに対しても、格さんとの関係性についても、家族の在り方も、「こうあるべき」っていう理想があると、そこから外れたときに、良くないものになってしまうじゃないですか。
助さん:でも、正直わからないですね。今、「伝統的な」家族像みたいなものを疑ってかかっているから、いろいろな形があっていいじゃないかと思っているんですけど、もしかしたらそれはものすごく脆いものかもしれないという怖さはありますね。今の社会制度は、「伝統的な」家族像を基本としてできているから、そっちに寄っていった方が生きるのは楽なのかもしれない。
格さん:それで苦しくなる人もいるのかもしれないですけどね。
助さん:カミングアウトがなかったら、結婚しようとも思っていないし、二人で一緒にやっていこうとも言っていないと思います。私のセクシュアリティが曖昧だということをわかりつつ、興味を持ってくれたので、二人でセクシュアリティについて話すことが多かった。
助さん:結婚が決まってからですね。好みの男性とか。「こういう男性はどう?」ってさまざまなタイプの男の写真を送ってきたりして。
格さん:好奇心からですね。
助さん:自分のセクシュアリティについて、よくわからないから放っておいたところもあったんです。でも、そこを掘り下げてくれて、一緒に考えてくれた。その過程もすごく大事だった。カミングアウトよりも大事な作業だったなって。
格さん:訊いたことは全部、考えて答えようとしてくれました。「それは考えたことなかった」って言いながら。もし、「それ以上踏み込まないで」ってされていたら、私も不安になったりしたと思うんですけどね。
助さん:半年ぐらいはずっと、電車の中とかでも、セクシュアリティの話だったよね。
格さん:その当時は、「あなたはどういう人なの?」と聞いていたかも。男の趣味とか、これまでの恋愛遍歴とか、いつ気が付いて、どのように折り合いを付けていたのかということも聴いた。最近、自分のことは気が済んだのか、「マイノリティの人と社会」に関心が移っているのかなぁ。
助さん:自分自身を見つめ直すような作業があって、気が済んだ。それで二人の話題が、「セクシュアルマイノリティは社会でどう生きていくか」みたいな話題に移ってきたんだと思います。
助さん:段取りが良かったんだと思います。例えば、結婚したあとに、「男が好きだ」って私が言ったら、格さんは、自分が性の対象になっていないことに、悲しい気持ちになるというか。
格さん:なぜ後出しなんだという感情はあるだろうね。
助さん:私は、カミングアウトして良かったと思っています。改めて自分を見つめる機会になったし、一緒に考えてくれる人を見つけられたことが、すごく心強いですね。大切な人に聴いてもらうことはいい経験になりますし、その人との関係が次のフェーズに行くんじゃないかと思います。カミングアウトをする理由とか、内容とか、いろいろあると思うので、カミングアウトしたいなと思えばすればいいんじゃないかと思います。
格さん:「カミングアウトは素晴らしいことです」とは、うかつには言えない部分もあります。「言える/言えない」とか、「言いたい/言いたくない」は、相手に対する信頼感の表れでもあるので、どうしたいのかは、本人が一番よくわかるのではないかと思います。一番伝えたいと思える相手は、きっと温かく聴いてくれるんじゃないかなぁと。私も、カミングアウトされたら温かく受け止めたいと思います。
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