Xジェンダー – これからは自分の気持ちと生きていく[後編]
2017年12月28日
カミングアウトストーリー
バブリングのイベントにも、お子さん連れでお越しいただいた丸山さん。男性としての性自認と、時によっては女性としての性自認が揺らぎながら存在しているといいます。子供の頃から現在に至るお話をお聞きしました。前編から続きます。
お母様にもカミングアウトをされたとお聞きしました。いつ頃だったのでしょうか?
母には去年(2016年)、夫に言った後に伝えました。でも、母とは何度も何度も話したので、どれがカミングアウトっていう感じではないんですね。
元々ご両親とは、どのような関係性だったんですか?
それまで親と真正面から向かい合ったことがなかったんですよ。いい娘像を演じていたというか。例えば古着って、メンズとレディースの区別が少ないのと、置き場所がきっぱり分かれていないので買い物しやすくて大好きだったんですが、古着を着ていると「そんな汚い格好するな」と言われるので、親の前では女らしい格好をしていたりとか。親の前ではいい娘を演じないとって思っていたんですけれど、初めて本音で、怒りに任せて親とぶつかったのが去年のことでした。
どのように伝えたのでしょうか?
ビジネススクールでの取り組みについて話した時に、初めはジャブを打つような感じで、Xジェンダーという言葉を出しました。母は混乱していて、Xジェンダーってなんだって話になったんですが、自分もそうだと伝えたんですね。娘扱いしないでって。
その後の反応はどのようなものだったのでしょうか?
もともと性別に違和感をもっているようには見えなかったとか、世の中をみてないからだとか、全然受け入れられませんでした。コンサルティング会社の時の話もしたんですが、それは変な会社で働いたから、そういう風に頭で違和感を感じているだけなんじゃないかって。
後日、中学の時に女の子が好きだったという話もしたんですけれど、同性愛は昔は勘当だったというようなことを言われて、もうだめだって思って。今まではすごく連絡しあう親子だったんですが、初めて半年間一切連絡を取らない期間がありました。
お父様へのカミングアウトは同時にされなかったのですか?
その頃は父には、まだ伝えていなかったです。父は古い考え方なので、子供を一時保育に預けて仕事をしているという話をしたら、幼稚園に入るまでは母親は子供と一緒に家にいるのが当たり前だって言われたり、女性には一般事務職が向いているとか、女性がお茶汲みをした方が感じがいいとか平気で言うんです。
そういう私自身のアイデンティティに関わる話を父にされたことで、もう怒りがとまらなくなって。吐き気とか頭痛がして、でも父親には直接言えない気持ちがあったので、一切連絡を取らないというのが、最近まで続きました。
最近は、どんな変化があったんですか?
子供と自分がインフルエンザにかかって、もうどうしようもない時に、母に来てもらったことがあったんですよ。それで半年ぶりに母とは会いました。今年は体調が悪い時期が何回かあったので、何度か母にきてもらったんですが、親に伝えようとすると、その度に涙がでてきて、でもその度に少しづつ、泣きながらだったんですが、話すようになりました。
そうしたら母も父もLGBTの講演会に行ってくれたみたいで、ちょっとづつ勉強して、母は自分が話したそのままを受け止めてくれるようになりました。抑圧している感情があるんじゃないの、って気にしてくれたりします。でも父は、まだ全然だめなんですけど。
お母様の変化は安心しますよね。
そうですね。最近嬉しかったのは、母が他の人に自分を紹介してくれる時に「こどもです」って言ってくれたんですよ。娘って言ったら嫌がるかなって、「こどもです」って紹介してくれたのがすごくうれしくて。
お父様との最近のエピソードは何かありますか?
今年の5月に帰省したときに、両親に地元のクリニックに連れていかれたんです。ジェンダーのことを見てくれるクリニックがあるって言ってくれて。自分の性自認のことは生きるか死ぬかくらい大切なことで、特に父には話したくなかったんですが、でも行こうって言われて。
自分の性別は自分で決めるって思ったし、否定されたらいやだと思っていたんですが、行ってみたら、あっさり性同一性障害の可能性が高いと診断されました。父は医者とか、第三者の科学的な意見だったら聞くんですよ。それで、今後はわかってくれるかもしれないと思って、なんかスカッとしたんです。でも、父はまだ受け入れられないみたいですが。
母親よりも父親の方が受け入れにくいと言うのはイメージとしてもありますね。
実は最近まで、男性恐怖が激しくて、父親でさえつい最近まで、コミュニケーションをとらないようにしていたんです。それが、最近帰省した時に手紙を渡したんです。以前「男と女では身体が違うのだから、女が子どもを産んで育てるのが当たり前だ」というようなことを言われた時、怒りに任せて書いた手紙で、怖くて1年間渡せずにいたんです。
どんな手紙だったんでしょう?
父が肩書きだとかデータとかばかり気にして、自分の心と向き合ってくれなかったとか、性別とか、肩書きとか、そういうのを抜きにして、心と心で向き合ってみたかったって書いたんです。そしたらやっとわかってくれたんですよ。自分のブログとかも見つけて読んでるみたいで、話があるから東京に行くって言われました。
でも部屋の中に、父親であっても男性と二人でいるみたいな状況は恐怖で耐えられないと思って、夫と息子も一緒にいたんです。そうしたら父にとっては自分のことすら怖いと言われたのがショックだったみたいで、「考え方が違っても味方だよ」って初めて言ってくれたんですよ。それはLINEでも言ってくれて。家にきてからも、言ってくれて。あなたは何かにぶつかりにいこうとしているようにしか見えないとか、言われたんですよ。でも、敵ではない。父親=敵ではないってことを言われて、それで、すごい涙が止まらなくなりまして。
父親は感情をあんまり表さなくて、母も父のことを怖がっていたし、全部母を介してコミュニケーションをする感じだったので、父と対峙したことがなかったんです。初めて面と向かって、性別云々というよりは、人間として向き合えたというか。それがあって、父のことが少しずつ怖くなくなってきたんです。まだ怒りはありますし、気持ちの整理はついてないですけど。
これからの夢などあればお聞きしたいなと思うのですが。
去年ぐらいから他のXジェンダーの人と会いたくて、交流会をやっているんですが、初めて同性と話している感覚がするんです。ぴったり同性。体の性別に関わらず、みんな違うんですけど同性っていう感覚。友達ってこういう感じなのかなっていうか、遠い親戚で久しぶりに集まったような安心感があるんです。だから、話していてとても楽しくって。
今までは適当に人の話に合わせて、そんな感じで人間関係を作ってきて、ああ疲れたあ、って感じだったんです。だから今は自分の感情を感じながら、本音で話せる関係が少しずつできてきたので、先のことはあんまり考えられてはいないです。でもそういうことを続けていく中で、みんな自由に、シスジェンダーの人でも「女ならこうしなさい」、とか言われるのが嫌な人もいると思うので、そういう人も話せる場作りみたいなことが広がったらいいなと思います。
※シスジェンダー:体と心の性別が一致している状態。トランスジェンダーではない人のこと
最後に、今カミングアウトについて悩んでいる人に向けてメッセージがあればお願いします。
自分自身はやり方がわからない中でカミングアウトをしてきて、辛い思いもしたし、血を流しながら、怒りとともにぶつかっていったところがあります。ただ、その人や地域によっても事情が違うので、すればいいってものではないと思います。自分の場合はXジェンダー同士でリアルに会える交流会なども少なかったですし、自力でインターネットとか本から情報を集めて、自分自身でも混乱していたし、頭がおかしくなったとか病んでるとか言われた、そういう過程もあったので、いまカミングアウトしていなくて、しようと悩んでいる人がいたら、当事者同士で安心して話せる場とかで、自分のことをゆっくり言葉にできるようになってから、自分が周りの人にも伝えたいと思ったタイミングで、無理なく少しずつ伝えていく、というのが精神的な負荷が少なくて済むかなと、自分自身の反省としては思います。
穏やかで優しい印象の丸山さんですが、一度は自分らしさにふたをしてしまってから、もがきながらも自分らしい生き方を取り戻されていったお話はリアルで力強く、胸に迫ってくるものでした。長時間にわたってインタビューにお答えいただいた丸山さんには感謝申し上げます。ありがとうございました。
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