ゲイ – カミングアウトは誰のためにするのか [スペシャルインタビュー]
2015年10月10日
カミングアウトストーリー
先ごろ10年以上つきあったパートナーを亡くされたけんたろうさんにインタビューをさせて頂くことができました。今日の日本において、カミングアウトには少なくない難しさやリスクを伴いますが、ご自身の辛い経験を通し語って頂いた思いをお聞きして、私たちもカミングアウトと向き合うことの意味を改めて考えざるを得ませんでした。
間もなく10月11日に初めてのカミングアウトデーを迎えます。これまでカミングアウトの具体的事例をメインにご紹介してきましたが、今回のカミングアウトストーリーは特別編としてお届けします。
〜カミングアウトは誰のためにするのか〜
けんたろうさんもインタビュー中に仰っていますが、カミングアウトとは一種の承認欲求でもあり、私たちバブリングもカミングアウトという行為を「言えなかったことを打ちあけて新たな関係を築くことで自分らしく生きていくための手段」と定義しています。同性パートナーシップ条例等の報道を見ても分かる通り、セクシュアルマイノリティを取り巻く状況は良い方へ向かっています。しかしながらヘテロセクシュアル(異性愛)が正常で、性的指向が同性に向かうことが一般的に「異常」とされてきたこれまでの状況下では、自分自身がセクシュアルマイノリティであることに悩み葛藤し→やがて向き合わざるを得なくなり→少しずつ自身を受け入れていく、というステップを踏むことになります。そうした一連のステップの中で、カミングアウトは「自分らしく生きていくためのひとつの手段」であるわけなのですが、けんたろうさんご自身の経験を通してお話し頂いた思いは、さらに私たちの心を打つものでした。カミングアウトは大きな障がいもあるし、時間がかかるかもしれないけど、できるならした方がいいと仰るけんたろうさんにお話をお聞きしました。
本日はよろしくお願いいたします。パートナーの方とのことをお聞きする前に、けんたろうさんご自身はご家族にカミングアウトをされているそうですが、その時の経験についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
けんたろうさん(以降K): つきあっている相手がいる人、これから誰かとつきあう人の役に立つお話ができたらと思っています。よろしくお願いします。家族へのカミングアウトですが、初めに母にしました。
その時の年齢や、場所などお聞きできますか?
K:4年前になりますが、その時は29歳でした。当時は実家住まいだったので関西ですが、都心部ではなかったので、地域的にはセクシュアルマイノリティが受け入れられやすい雰囲気ではなかったと思います。
カミングアウトをすることになった経緯を教えてください。
K:カミングアウトをしたのは、嘘をつきたくないという気持ちからです。
その日に言おうと計画していたわけではなく、飲食店で母と夕食をとっている時に、会話の自然な流れでカミングアウトをしました。
当時家庭でトラブルがあり、母は落ち込んでいました。そんな母の気分を変えてあげようと思ったのがきっかけです。それでも、言う時は気がついたら怖くて怖くて涙が止まらなかった。言葉がつまりつまり、どもりどもりで「7年ほどつきあっている人がいる、その相手は男性で6つ上」だと伝えました。
その時お母様はなんと仰ったのでしょうか。
K:私は「孫の顔をみせられなくてごめん」と謝ったのですが、母は「あなたが幸せならそれでいいのよ」と言ってくれました。もうありがたくて、涙しか出なかった。
重大な決断をする時って、自分にとって大切かどうかを見極めるよい機会なのだと思います。そして自分のことを大切に思ってくれる人ほど私が幸せであればそれでいいのだと感じました。
大切な存在のお母様だから本当の自分を知ってもらいたかった?
K:自分のセクシュアリティに気付いて、まずはじめにすることは自分に対してのカミングアウトだと思います。そして他者へのカミングアウトは「承認欲求」ではないでしょうか。大事に思う人であればあるほど承認欲求がでてくるのだと思います。
そしてカミングアウトをしてあることで、いざというときに自分を助けてくれるし、自分を守る盾になってくれたりする、そう感じています。そういう意味でも一歩前にでてカミングアウトをしていくべきだと思います。それから、自分がパートナーのことをどこまで大切に思っているか、ということだと思っています。
パートナーのためにもカミングアウトが重要ということですか?
K:大事な人(パートナー)を守るためにカミングアウトすることを強調したいと思います。大事な人を守る=自分のためにもなります。自分がなにかあった時のためにパートナーがお見舞い、葬式も負い目なく来られる状態。そういう状態がパートナーのためになるのではないでしょうか。
今回パートナーの方と、辛いお別れがあったとお聞きしましたが、そのことをお聞きできますか?
K:パートナーとは10年以上つきあって、4年間は東京で同棲していました。いわゆる難病で、闘病生活は7ヶ月に渡りましたが、今年の4月に亡くなる直前まで病名がわからないという状況でした。
パートナーの方はご両親やご家族にはカミングアウトはしていたのでしょうか。
K:亡くなる数日前、遠方からご両親を呼んだ際にカミングアウトと、パートナーである私の存在を伝えてくれました。ただ、ご家族の方にカミングアウトと私の存在を十分受け入れてもらえる時間はなかったので、共に生き、病気と闘ってきた私にとっては非常につらいやりとりになりました。
差し支えなければその時のことをお聞かせください。
K:10年以上を共に過ごしてきましたし、闘病の際は私も仕事を休職し、全力で支えてきました。でもそれが理解してもらえなかったし、亡くなったのも私に原因があるのではないかと謝罪を求められました。
亡くなるまでご家族はやや疎遠でしたので、病気のことや、いざという時のことなど彼の意向を知っていたのは自分だけだったのですが、それでもパートナーとしての葬儀参列は認めてもらえませんでしたし、一番身近にいて彼のことを守り続けてきたのに、なぜ責められないといけないのかと。友人としてなら参列していいと言われたのですが、それはお断りしました。病室で最後のお別れはできましたので……
パートナーを亡くしただけでなく、彼のご親族との関係性から精神的にもかなり追い詰められましたが、最終的には自分の気持ちを押さえつけて相手のご両親には謝りました。
そうした経験からカミングアウトの重要性を感じていらっしゃるのですね。
K:こんな思いを誰にもして欲しくないんです。自分は今なにを守るべきなのか。
同世代以上には「親に言えない」とか自分のことだけを考えて生きるのをやめてほしい。守る存在がある人は、我が身さえよければいいという考え方をやめないといけないなと思います。
自分がかわいいだけではいけないし、新しい家族のような存在が出てきたとき、その存在を守る意味でカミングアウトはとても大切だと思います。
大変辛い経験をされましたが、自身のご家族に助けられたとお聞きしました。
K:母にカミングアウトをした後には、父に理解をしてもらえず病院に行くことを勧められたり、絶縁を宣言されたりしました。後に父は人伝てに謝ってくれましたが、そうしたつらい経験もあった一方、久しぶりに帰省した際に、親戚のおばに怒られました。私に頼ればよかったのに、と。そこではじめて親族の大切さを知らされました。
それから、かつてカミングアウトした時には一番厳しいことを言った姉が、パートナーを亡くして私が失意の底にいると知ると、関西から軽自動車を飛ばして一番に来てくれました。自分には理解していてくれる家族がいて助かったと思っています。
カミングアウトには難しさや、皆さん置かれている状況もそれぞれあるので、想いはいっしょですがバブリングには様々なカミングアウト段階のメンバーがいます。
K:確かに地域性などもあるので、例えば田舎の人にとってはそんなに簡単なことではないですよね。言葉は戻らないので、どれだけのリスクがあるかということもあるし、ただセクシュアルマイノリティにはいざという場合の実質的な補償もないし、大きな間で揺れている問題だと思います。
カミングアウトのその先にどんなストーリーが待っているかがウェブサイトには掲載されているといいと思います。
リスクと向き合った上で、行動に移せたらいいですね。
K:ゲイの世界ではパートナーと言っても、現状では口約束でしかないので、守りたいものがあるのならば行動が大事だと思います。マザーテレサの言葉にも「愛は行動を伴う」というのがありますよね。
カミングアウトとは、パートナーを守りたいという気持ちを行動に移すことでもあると思います。自分のセクシュアリティに対して自信をもっているのであれば、そしてパートナーとの関係を大切だと思うなら、カミングアウトを考えるべきではないでしょうか。渋谷区で条例ができて、国会でも同性結婚の法制化が議論されています。単に男が好き、女が好きとかという問題ではなくて、誰かを守るということが大切で、その気持ちを支える社会の制度が、日本でも実現されようとしています。もし、次付き合う人がいるなら、家族にカミングアウトしている人にしたいと思います。そうでないと、いざという時彼の意向に沿えないですから。
大変辛いご経験だったと思いますが、今日はインタビューにお答え頂いてありがとうございました。
「大切な人を守るためにするカミングアウト」というけんたろうさんの言葉には重みがありました。当時を振り返ることはけんたろうさんにとって、おそらく大変つらいことだと思いますが、同じ思いを他の人にしないで欲しいというけんたろうさんの思いが強く伝わってくるインタビューでした。
言いづらいことを持つ当事者にとって、カミングアウトは”自分らしく生きていくための手段”であることに違いはありませんし、カミングアウトの最初の目的は”自分が生きやすくなる”ということであっていいはずです。しかしその先に「大切な人を守るためのカミングアウト」があるのだということに今回改めて気づいた時、心のどこかにあった”カミングアウトを応援する”ということへの迷いが消えた気がしました。
けんたろうさんとパートナーの方との事例では、インタビューでお話頂いた内容の他に、公的制度上や法律上、多くの問題に直面しているとお聞きしました。これらは、法律上の同性パートナーシップ制度等の整備を待たないと解決されない内容もあり、現時点では専門的に取り組みをされている諸先輩方に頼りたいと思いますが、カミングアウトをしておくことで解決する問題も多いのだろうと思います。
カミングアウトをすることは自分のため(だけ)にすることではなく、大切な人を守るためにすること。だから、パートナーや大事な人がいる人にはカミングアウトをしてほしいということ。
けんたろうさんはこうして話すことが自分の救いにもなると仰っていましたが、私たちバブリングとしてもけんたろうさんの想いをしっかり汲みとっていきたいと思います。貴重なインタビューをさせて頂いたけんたろうさんに改めて御礼を申し上げます。
関連リンク
EMA日本様ウェブサイトに掲載されたけんたろうさんの事例紹介記事
http://emajapan.org/同性婚ができないことによる同性カップルの不利.html
けんたろうさんがセミナーで講演されます
第2回 ぶんきょう未来セミナー
テーマ: LGBTって身近にいるの!?〜命を守るために〜
日 時: 2015年10月19日(月)18:30〜20:30
会 場: 文京区役所4階シルバーホール(地下鉄春日駅、後楽園駅直結)
参加費: 無料
http://maedakunihiro.com/?p=1939
より詳しいお話をお聞きになりたい場合など、
けんたろうさんへ連絡をご希望される場合は、その旨下記までご連絡下さい。
info@npobr.net
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