バイ – カミングアウトされて芽生える新しい関係性[対談]

バイ – カミングアウトされて芽生える新しい関係性[対談]

2016年4月10日

カミングアウトストーリー

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今回は、カミングアウトを受けた百合香さんと、百合香さんにカミングアウトをしたマイコさんのお話を伺います。お二方、よろしくお願いします。二人が出会ったのはいつですか。
百合香:美大を目指すための予備校で、同じクラスになったんです。学校ではデッサンの授業なども順位付けされるので、同級生はライバルであり、励まし合う仲間でもありました。マイコはデッサンがとても上手で、女の子らしい恰好をしていて可愛く、目立っていたんです。
マイコ:百合香は、肌の露出が多くて、声も大きくて、目立っていたよね(笑)
カミングアウトされた場所・具体的な流れを教えてください。
百合香:電車の中だったの。マイコ、覚えてる?
マイコ:それが覚えてないの、うっすらしか。
百合香:学校の帰り道、電車で隣に座っていて。何の話の流れかはわからないんだけど、「私、バイセクシャルだからさ」って、笑顔で言われたの。その時に私、「ごめんね」って言っちゃって。「気付かなくてごめんね」なのか、「聞いちゃってごめんね」なのか思い出せないんだけど。マイコから、「謝ることじゃないよ」って言われて、当時の自分の言葉で表現すれば、「私、イケてないな」って思ったの。そこから話を深めたわけじゃなくて、普通にバイバイしたような気がする。その後も、関係性は特に変わっていないしね。
ただ、初めてのカミングアウトだったから、すごくびっくりした。今だったら、違う言葉をかけられただろうなって。知識や経験があったら、色々な事を話しただろうし。もしかしたら、マイコのことを傷つけちゃったんじゃないかなって思ってる。
マイコ:特にショックじゃなかったと思う。葛藤はあったけど、誰かに知ってもらうという事は良い事だと思っていたし。それに、百合香に話す前に、クラスの親友にもカミングアウトしていて、その子の反応がすごく良かったから、同じように受け止めてくれるだろうって油断していたの(笑)
百合香:当時の私を見誤っていたよね(笑)今だったら、彼女とかいたの?とかいろいろ聞けるんだけど。
マイコ:そういう話聞いてもらったら嬉しかったかもしれない。謝られるっていう肯定的な反応じゃなかったから、違和感というか、言わなきゃ良かったかもしれないって思ったかも。
百合香:何で謝ったのか思い出した。「恋愛対象」として見られているって私が勝手に思い込んで、「(そういう気持ちに答えられないことに)ごめんね」って言ったのかも。そうしたら、マイコが「女の子なら誰でも好きになるわけじゃないよ」って説明してくれて、「そりゃそうだよな」って思って、すごく恥ずかしい気持ちになったんだった。
とにかくびっくりして、どう答えたらいいんだろうとか、何がベストなんだろうってぐるぐる考えて、半ばパニックになってたんだよね。
もし当時に戻れるとしたら、カミングアウトされた時に、百合香さんはどのように答えますか?
百合香: 「あの男の子のこと好きなんだよね」って言われたときと同じような受け止め方で、「今、気になってる子はいるの?」と聞くかも。そういう話ができれば、十分かな。そのときのマイコはすごくあっけらかんとしていたから、私も、それを当たり前のように受けて止めれば、一番良かったかな。
マイコって何であんなに堂々としていたの?
マイコ:自信があったのかも。アートの世界を目指していたし、いかに自分らしさや周りの人との違いを出すかということが大切だと思っていたから。あと、小・中学生の時に、いじめられていて。セクシャルマイノリティだからってことじゃなくて、別の理由だったのだけど、そんな風に、いつでもどこでもマイノリティ側になることがあるって思っていたから、別にマイノリティでいいやって。親の姿を見ていて、社会には偏見があるということを感じていたし。
家族からどのような影響を受けていたのでしょうか。
マイコ:私の父のおばあちゃん、つまりひいおばあちゃんがアイヌの人で、そのことを隠しながら生きていたという話は聞いていましたし、父が勤めている会社で積極的に外国人の方を雇っている事を知って、偏見を持たない事をかっこいいなって思ったんです。
これからカミングアウトする人に対して、マイコさんが伝えたいメッセージは何ですか?
マイコ:マイノリティな部分を持っていることは普通のことだよ、と言いたいです。日本では、何か正しいものがあるようにみんなが同じ方向に進んでいくけど、海外では、他の人と違うということが大切にされていて。自分がしたいことをしてもいいんだと思える環境なんです。日本にいて窮屈に感じることはあるけど、セクシャルマイノリティであることとか、他の人と違うということを楽しむくらいの気持ちがあるといいなって、思っています。
ありがとうございます。カミングアウトを受ける人に対して、百合香さんが伝えたいメッセージは何ですか?
百合香:もし「気持ち悪い」とか、「嫌だ」と思ったとしても、それはそれ。それまで仲良くしていた目の前の人を好きだという気持ちと、ネガティブな気持ちが一緒にあってもいいと思うんです。それまでの価値観を反映している訳で、それは自分そのものでもあるし。
カミングアウトされて芽生える新しい関係性を大事にできればいいのかなって。自分の偏見や無知に気づくきっかけをもらえて、ラッキーだと思います。カミングアウトされたあとにどのような関係性を作っていくかは、カミングアウトをされた側が鍵を握っている気がします。相手がハードルに思っている事を自分に話してくれたということに対して、どのような関わりを選択していくのか、そもそも自分はどう生きていきたいのか。それを考えるきっかけを大切にして欲しいと思います。
今日、マイコと話ができたのは、意味があった。私は12年かかって、その時のことをいろいろ話せたな、って。こうした機会をつくっていただいた皆さんに感謝です。
当時のできごとをお二方それぞれの視点でお話していただきました。当時の記憶がだんだんと甦るなかで、新たなに気付かれたこともあったようで、私達も貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございました。

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